「なぜ観光客は『せっかくだから』に弱いのか?」

旅行先でメニューを見ながら、こんな会話をしたことはないでしょうか。

「せっかく金沢まで来たんだから、海鮮を食べよう」

「せっかく飛騨高山まで来たんだから、飛騨牛を食べよう」

「せっかく北海道まで来たんだから、今日は豪華にカニを食べよう」

普段なら、

「ランチに3,000円はちょっと高いな」

と思う人でも、旅行先では3,000円、4,000円、場合によってはそれ以上の料理を選ぶことがあります。

しかも、食べ終わったあとに、

「高いものを食べてしまった」

と後悔するどころか、

「いやあ、せっかく北海道まで来たんだから、カニを食べてよかったね」

と満足して帰る。

不思議ですよね。

同じ3,000円、4,000円でも、普段の食事と旅行先では、お客様の感じ方が変わります。

なぜなのでしょうか。

私は、この違いを考えるうえで、とても重要な言葉があると思っています。

それが、

「せっかくだから」

です。

観光地では、この「せっかくだから」という気持ちが、お客様の選択を大きく変えます。

ただし、単純に「旅行へ行くと財布の紐が緩む」という話ではありません。

むしろ観光地の飲食店にとって大切なのは、

お客様の「せっかくだから」に応えられる商品を、きちんと用意できているか。

ということなのです。

目次

観光客は「今回を逃したくない」と思っている

日常の食事なら、

「今日はやめておこう」

と思っても、また次があります。

しかし旅行は違います。

次にこの町へ来るのは、いつになるかわかりません。

もしかすると、もう来ることはないかもしれません。

だから、

「せっかくここまで来たんだから」

という気持ちが生まれます。

そしてもう一つ、

「せっかく来たのに食べなかった」

という後悔もしたくありません。

観光地で名物料理が強い理由の一つも、ここにあります。

お腹を満たすだけなら、どこでも食べられます。

しかし旅行では、

「ここへ来たから、これを食べた」

という体験そのものを持ち帰りたいのです。

「高いから売れない」と店側が決めてはいけない

ところが、お店側が先回りしてしまうことがあります。

「こんな高い料理は注文されないだろう」

「4,000円の海鮮丼なんて高すぎる」

「ここまで豪華にする必要はない」

そう考えて、最初から商品をつくらない。

しかし、本当にそうでしょうか。

地元のお客様なら「そこまでは要らない」と思う商品でも、遠くからわざわざ来たお客様にとっては、

「せっかくだから、それを食べたい」

になることがあります。

頼むかどうかを決めるのは、お客様です。

お店がやるべきことは、お客様に無理に高いものを売ることではありません。

「こんな楽しみ方もできますよ」と、選択肢を用意してあげることです。

メニューは「顧客体験の提案」である

私は、メニューとは単なる料理の一覧表ではないと考えています。

メニューは、お店からお客様への提案です。

「こんな料理があります」

だけではありません。

「この店では、こんな体験ができますよ」

という提案です。

例えば、回転寿司などで見かける「いくらのこぼれ盛り」。

お客様は店に来る前から、

「今日はイクラを器からこぼれるくらい食べたい」

と思っていたわけではないでしょう。

しかし、写真や商品を見た瞬間、

「何これ!」

「食べてみたい!」

となる。

お客様自身も気づいていなかった欲求を、商品によって引き出しているのです。

豪華海鮮丼も同じです。

ウニ、イクラ、大トロ、カニなどが豪快に盛られ、出てきた瞬間に思わず写真を撮りたくなる。

「こんなの、あったら良いなぁ」

を、お客様が言う前に商品にしておく。

それが商品開発です。

「ここまでは要らないだろう」まで用意してみる

商品を考えていると、どうしてもお店側の金銭感覚が入ります。

「さすがに5,000円は高いだろう」

「こんなにイクラを乗せなくてもいいだろう」

「ここまで豪華にする必要はないだろう」

しかし、ときには、その「ここまで要る?」という商品が必要です。

例えば海鮮丼なら、価格を抑えた商品がある。

少し豪華な商品がある。

そして、

「ここまで乗せる?」

というくらい豪華な商品がある。

この一番上の商品を見て、

「旅行なんだから、せっかくだし一番いいのにしよう」

というお客様がいます。

それでいいのです。

一方で、

「さすがに一番上までは要らないけれど、その下ならかなり豪華だよね」

と考えるお客様もいます。

そして食べ終わったあと、

「一番高いのにしなくても、これで十分だったね」

「この内容なら、この値段はお得だったね」

と、自分たちは賢い買い物をしたと感じてもらう。

さらに、価格を重視するお客様のためには、コストパフォーマンスの良い入口の商品も用意しておく。

どれが正解ということではありません。

お客様によって、旅行に使える予算も、食事に求める価値も違います。

だからこそ、お店側が選択肢を用意するのです。

コスパとは「安いこと」ではない

ここで間違えたくないのが、コストパフォーマンスです。

コスパが良いというと、

「安い」

と考えがちです。

しかし、5,000円の料理でも、

「これなら5,000円払ってもいい」

と思えば、お客様にとってコスパは悪くありません。

大切なのは、価格が上がる以上に、商品の魅力が上がって見えることです。

例えば、

「あと1,000円出すだけで、こんなに豪華になるの?」

と思えば、お客様は自然と上の商品が欲しくなります。

これは、高い商品へ無理に誘導しているわけではありません。

高い商品のほうが魅力的に見えるから、お客様自身がそちらを選んでいるのです。

商品設計で大切なのは、単純に価格の階段をつくることではありません。

価格が上がる以上に、魅力が上がって見える階段をつくることです。

高い商品を選んだお客様ほど、思い出が強くなる

私が現場を見ていて感じるのは、単価の高いメニューを選んだお客様ほど、満足度が高いことが多いということです。

もちろん、価格以上の価値を提供していることが大前提です。

しかし、高い商品を選んだお客様には、

「せっかく来たから、一番いいものを食べた」

という体験が残ります。

料理だけではありません。

「4,000円もする海鮮丼を食べた」

「イクラがこぼれるくらい乗っていた」

「こんな豪華なもの、普段は食べないよね」

そんな会話まで含めて、旅の思い出になります。

観光地では、価格そのものが体験の一部になることがあります。

だから、価格を下げることだけがお客様満足ではありません。

「ここまで来たから、これを食べた」

と思える体験を用意することも、お客様満足なのです。

お客様が自然と「もう少し良いもの」を欲しくなるか

だから、メニューづくりのセンスが問われます。

一番高い商品を大きく表示して、無理に注文させればいいわけではありません。

普通の商品を見たあとに、

「これもいいな」

さらに上を見て、

「でも、あと少し出せばこっちになるのか」

そして、

「せっかくだから、こっちにしよう」

と自然に思える。

その流れをつくれるかどうかです。

「買わせる」のではありません。

お客様自身が「こっちが欲しい」と思える商品をつくる。

そこには、料理の内容だけでなく、ネーミング、写真、盛り付け、器、食材、ボリューム、限定感など、さまざまな工夫があります。

いくらのこぼれ盛りが魅力的なのは、単にイクラの量が多いからではありません。

「こんな贅沢な食べ方をしてみたい」

と思わせる体験になっているからです。

観光地だからこそ「あったら良いなぁ」を考える

観光地のお客様は、日常とは違う時間を過ごしに来ています。

いつもの昼食。

いつもの夕食。

それと同じものだけを求めているわけではありません。

「せっかく来たから」

「今日くらいは」

「旅行なんだから」

そんな気持ちを持っています。

だからこそ、観光地の飲食店には、

お客様がまだ言葉にしていない「あったら良いなぁ」を考えること

が必要です。

せっかく来たなら、こんな料理を食べてみませんか。

せっかく旅行に来たなら、こんな贅沢をしてみませんか。

せっかく家族で来たなら、こんな思い出をつくりませんか。

それを料理という形にして、メニューで提案する。

それが観光地の商品づくりなのだと思います。

原島 純一の視点

観光地で高単価商品を用意するという話をすると、「観光客から高く取る」という話に聞こえてしまうことがあります。

私は、まったく逆だと考えています。

せっかく遠くから来てくれたお客様が、

「今日は少し贅沢したい」

「この土地で一番いいものを食べたい」

と思っている。

それなのに、お店側が「ここまでは要らないだろう」と勝手に決めて、その選択肢を用意していない。

それでは、お客様がしたかった体験そのものを提供できません。

だから私は、「ここまで要る?」と思うくらいの商品まで考えてみることが大切だと思っています。

それを選ぶ人もいる。

その一つ下を選んで「自分たちは賢い選択をした」と喜ぶ人もいる。

価格を重視して、入口の商品を選ぶ人もいる。

それでいいのです。

大切なのは、高いものを売ることではありません。

メニューを通じて「こんな楽しみ方もできますよ」と、お客様に提案することです。

そして、お客様がその提案を見て、

「せっかくだから、これにしよう」

と自然に少し良いものを選びたくなる。

そのためには、価格が上がる以上に商品の魅力が上がって見えなければなりません。

お客様の「あったら良いなぁ」を先回りして形にする。

私は、それが商品づくりであり、商売なのだと考えています。

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