名古屋駅の新幹線待合室にあるカフェを利用したとき、スタッフからこんなことを聞かれました。
「何時の新幹線に乗られますか?」
最初は、何気ない一言に聞こえます。
でも考えてみると、コーヒーを売るだけなら、新幹線の時間を聞く必要はありません。
なぜ聞くのでしょうか。
おそらくスタッフが見ているのは、
「この注文を作れるか」ではなく、
「このお客様が商品を受け取って、新幹線に間に合うか」
なのだと思います。
新幹線の待合室では、「提供時間」の意味が違う
街中のカフェなら、
「少しお待ちください」
でも、それほど大きな問題にならないことがあります。
しかし、新幹線の待合室では違います。
あと20分で出発する。
あと15分。
あと10分。
お客様には、動かせない締切があります。
その状態で注文を受けてしまい、
「出来上がるまで10分かかります」
となればどうでしょうか。
受け取ったあと、ホームまで移動する時間も必要です。
場合によっては、
商品を待っていたために、新幹線へ急ぐことになる。
それでは、お客様にとって良い買い物とは言えません。
注文を受ける前に、間に合うかを確認する
だから、
「何時の新幹線ですか?」
と先に聞く。
乗車時間が分かれば、
現在の混雑状況。
注文商品の提供時間。
ホームまでの移動。
そうしたものを踏まえて、
「十分間に合います」
「今ですと少しお時間が厳しいかもしれません」
と案内できます。
つまりこの質問は、
注文を取るための質問ではありません。
お客様がこの店を利用しても大丈夫かを判断するための質問です。
ここが面白いと思います。
売上だけを考えれば、注文を受けたほうがいい
店側だけを考えれば、
注文を受ける。
商品を売る。
売上になる。
そのほうがいいように見えます。
でも、お客様が新幹線に乗り遅れそうになったらどうでしょうか。
コーヒー一杯を売ることには成功した。
しかし、お客様の旅行全体では大きな不満を作ってしまう。
つまり、
その場の売上だけを見れば正解でも、お客様の利用全体を見れば不正解になることがある。
これは飲食店の接客を考えるうえで、とても重要なことだと思います。
お客様は「コーヒーを買うためだけ」にそこへ来ているわけではない
新幹線待合室にいるお客様の目的は、カフェを利用することだけではありません。
本来の目的は、
新幹線に乗ること。
その途中で、
コーヒーが飲みたい。
飲み物を持って乗りたい。
少し休みたい。
そう思ってカフェを利用しています。
つまりカフェは、
お客様の目的そのものではなく、移動の途中に存在している。
このことを店側が理解しているかどうかで、接客は変わります。
「このあと」を考えると、質問が変わる
普通の注文なら、
「店内ですか?」
「お持ち帰りですか?」
「サイズはどうしますか?」
「追加はいかがですか?」
と聞きます。
もちろん必要な質問です。
でも新幹線待合室では、さらに、
「何時の新幹線ですか?」
が加わる。
なぜなら、その店のお客様にとって、
最も重要な条件が「時間」だからです。
立地が違えば、お客様が必要としているものも変わります。
だから接客も変わる。
良い接客は、「今」だけを見ていない
私は、この一言から感じることがあります。
良い接客は、
目の前の注文だけを処理しているわけではない。
お客様が、
このあと何をするのか。
どこへ行くのか。
何時までに動かなければならないのか。
そこまで想像している。
つまり、
良い接客は、お客様の「次の予定」まで見ている。
のだと思います。
観光地の飲食店でも、まったく同じことが起きる
これは駅のカフェだけの話ではありません。
観光地なら、
「○時のバスに乗りたい」
「○時にロープウェイを予約している」
「ツアーの集合が○時」
「旅館のチェックインがある」
「レンタカーを返さなければならない」
というお客様がいます。
そのお客様に、
提供まで40分かかる料理を何も伝えず受注したらどうでしょうか。
料理は出せた。
売上も立った。
でも、お客様の予定を壊してしまった。
それでは、本当の意味で満足してもらえません。
「提供できる」と「利用してもらってよい」は違う
厨房としては作れる。
席もある。
注文も受けられる。
だから、
「提供できる」
とは言えます。
でも、そのお客様が次の予定に間に合わないなら、
「今、この料理を利用してもらってよいか」
は別の問題です。
これはかなり大きな違いです。
飲食店は、
作れるかどうか
だけを考えるのではなく、
お客様がその料理を安心して利用できるか
まで考える必要があります。
予約時にも、同じことがある
例えば宴会や会食でもそうです。
「19時から予約したい」
と言われた。
でも、
「何時までにお店を出たいですか?」
を聞いていない。
すると当日になって、
「21時の電車に乗らないといけない」
と分かる。
コース料理が終わらない。
最後の料理を急いで出す。
デザートを食べられない。
会計も慌ただしくなる。
最初に、
「お帰りのお時間は決まっていますか?」
と聞いておけば、提供ペースも変えられます。
これも同じです。
利用シーンを見るとは、「このあと」を見ること
マーケティングでは、
年齢。
性別。
家族構成。
旅行客か地元客か。
など、お客様の属性を考えます。
もちろん重要です。
でも私は、
利用シーンを見るというのは、それだけではない
と思っています。
この人は、
なぜ今ここにいるのか。
このあと何をするのか。
何時までここにいられるのか。
誰と一緒なのか。
何を目的に利用しているのか。
そこまで考える。
すると必要なサービスが見えてきます。
新幹線待合室なら、
「何時の新幹線ですか?」
という質問になる。
観光地なら、
「次のご予定は何時ごろですか?」
になるかもしれない。
ビジネスランチなら、
「お急ぎでしたら、早くご用意できる商品はこちらです」
という案内になるかもしれません。
第1話の「待ち時間10分」と、本質は同じだった
第1話では、名古屋駅地下の繁盛店に、
「こちらで待ち時間10分です」
という案内が出ていました。
店側から先に時間を伝える。
今回のカフェでは、
「何時の新幹線ですか?」
とお客様の時間を聞く。
やっていることは違います。
でも、本質はかなり近い。
第1話は、
お客様が判断できる情報を先に渡す。
第2話は、
店側が判断するための情報を先に聞く。
どちらも、
「このお客様が、次の予定に間に合うか」
を考えている。
駅という同じ立地から、二つの違う工夫が見えてきます。
原島純一の視点
私は、お客様の利用シーンを考えるというのは、
「観光客だからこう」
「若い人だからこう」
という分類だけではないと思っています。
もっと具体的に、
この人は、なぜ今ここにいて、このあとどこへ行くのか。
そこまで想像することです。
新幹線待合室にいるお客様なら、最大の制約は新幹線の時間です。
だから、
「何時の新幹線ですか?」
という一言が出てくる。
コーヒーを売るだけなら、必要のない質問です。
でも、
お客様の一日の流れまで接客するなら、必要な質問になる。
私はここに、接客の大きな違いがあると思います。
料理を提供した。
会計をした。
それで接客が終わるわけではありません。
その店を利用したことで、
お客様が次の予定まで気持ちよく進める。
そこまで考える。
良い接客は、注文の先にある「お客様の次の行動」まで見ている。
私は、そう考えています。
答えは、現場にあります。
