名古屋の本当の名物は、「名物を作る力」なのか?

ここまで、さまざまな「名古屋めし」を見てきました。

昔から地域に根付いてきた豆味噌やきしめん。

一軒の飲食店の商品から広がった台湾ラーメンや手羽先、あんかけスパ。

周辺地域から入ってきた天むす。

尾張・岐阜を含む東海圏で育ったモーニング文化。

喫茶店から生まれた小倉トースト。

食べ方そのものまで価値になったひつまぶし。

さらには、名古屋発祥ですらないエビフライまで「名古屋名物」というイメージを持っています。

こうして並べてみると、不思議です。

これらには、

「名古屋で昔から食べられてきた郷土料理」

という共通点がありません。

生まれた時代も違う。

生まれた場所も違う。

料理のジャンルも違う。

それなのに、いつしか全部が、

「名古屋めし」

という一つの地域ブランドの中に入っています。

なぜ、名古屋ではこんなことが何度も起きるのでしょうか。

ここからは少し料理そのものを離れて、

名古屋という街

を見てみたいと思います。

目次

東京でも大阪でもない、大きな食文化圏

名古屋の位置を日本地図で見ると、とても面白いことに気づきます。

東には東京。

西には大阪・京都。

日本を代表する二つの巨大な文化圏の、中間に近い場所にあります。

普通に考えれば、どちらかの文化圏から強い影響を受け、その中へ吸収されても不思議ではありません。

ところが名古屋には、

「東京とも違う。関西とも違う。」

という食文化がかなり残っています。

その象徴が豆味噌です。

関東の食文化とも違う。

関西のだし文化とも違う。

愛知を中心とした東海地方には、

「自分たちは、この味がおいしい」

という独自の味覚があります。

もちろん、東京と大阪の間に位置していることが、直接的に名古屋めしの多さを生んだと断定することはできません。

しかし名古屋めしを調べていると、

二大都市圏のどちらにも完全には吸収されず、独自の食文化圏を維持してきたこと

は、新しい料理を「名古屋の味」として育てる土壌の一つになったのではないか。

そんなことを感じます。

外から来たものを「そのまま」にしない

そして第一部・第二部で何度も出てきたのが、

外から来たものを、そのままにしない

という現象です。

台湾料理をヒントに、新しいラーメンを作る。

スパゲティを独自の洋食にする。

パンに小倉あんを合わせる。

周辺地域から入ってきた料理を、名古屋でも育てる。

全国にある料理でさえ、名古屋らしいイメージと結びついていく。

外から来たものを拒絶するわけではない。

そのままコピーするだけでもない。

取り込んで、自分たちなりに変える。

これが何度も起きています。

ここに、名古屋という街の面白さがあるように思います。

「改良する」という感覚は、食だけの話なのだろうか

ここで、名古屋・愛知という地域をもう少し広く見てみます。

愛知県は、日本を代表するものづくりの地域です。

自動車。

機械。

航空宇宙。

陶磁器。

繊維。

さまざまな産業が発展してきました。

もちろん、

「ものづくりが盛んな地域だから名古屋めしが多い」

などという単純な因果関係を示すことはできません。

しかし、名古屋の食文化を調べていると、私はどこか似たものを感じます。

あるものを、そのままにしない。

もっと良くできないか考える。

工夫する。

組み合わせる。

改良する。

商品として完成させる。

そして、お客様に提供する。

この「工夫して価値を高める」という感覚が、名古屋めしにも何度も登場するのです。

名古屋めしには「改善」が多い

例えば手羽先。

もともと存在していた食材に、揚げ方や味付けを工夫し、看板商品としての価値を与えた。

あんかけスパ。

スパゲティをそのまま提供するのではなく、独自のソースや食べ方を作った。

台湾ラーメン。

台湾料理をそのまま再現したのではなく、店の商品として独自に作り上げた。

小倉トースト。

パンとあんこを組み合わせる。

ひつまぶし。

鰻を食べるだけではなく、食べ方そのものに楽しさを加える。

モーニング。

コーヒーを一杯売るだけではなく、

「何か付けよう」

から始まり、店同士のサービス競争によって価値がどんどん加わっていく。

どれも、

「今あるものに、もう一つ価値を加える」

という発想が見えます。

なんだか、ものづくりの「改善」に少し似ていると思いませんか。

名古屋には、新商品を育てられる「市場」もあった

ただし、新しい料理を作るだけでは地域名物にはなりません。

ここは重要です。

料理人が新商品を作る。

でも誰も食べなければ、その店だけの商品で終わります。

地域文化になるためには、

地域の人たちが食べる

必要があります。

そして名古屋には、大都市として大きな市場があります。

人口がいる。

企業がある。

働く人がいる。

繁華街がある。

外食需要がある。

喫茶店文化もある。

つまり、

新しい商品を試し、それを支持し、育てられるだけの市場がある。

台湾ラーメンも。

手羽先も。

あんかけスパも。

最初から「名古屋名物」として作られたわけではありません。

まず地元のお客様が食べた。

人気になった。

店が繁盛した。

ほかの店も提供するようになった。

地域の人にとって普通になる。

そして外から来た人が、

「これは名古屋らしい」

と認識するようになる。

この順番が大切なのだと思います。

名物は、観光客だけでは作れない

ここは、観光地の飲食店を考えるうえでも非常に重要です。

地域名物を作ろうとすると、

「観光客に何がウケるだろう?」

から考えてしまうことがあります。

もちろん、それも必要です。

しかし、名古屋めしを見ていると、多くの料理は最初から観光客のために作られたものではありません。

まず、地域の人に食べられている。

これが強い。

地元の人が、

「これ、おいしいよ」

と言う。

何度も食べる。

友人を連れていく。

店が増える。

街の中で認知される。

そこへ観光客がやって来る。

そして、

「地元の人が食べているものを、自分も食べてみたい」

となる。

つまり、

観光資源になる前に、地域の日常として支持されている。

この順番が、ローカルフードの強さを作るのだと思います。

名古屋は「名古屋めし」という名前まで作った

さらに名古屋には、もう一つ大きな強みがあります。

それぞれバラバラだった料理を、

「名古屋めし」

という一つの言葉で括ったことです。

味噌煮込みうどんと台湾ラーメン。

ひつまぶしと小倉トースト。

手羽先とあんかけスパ。

料理としては、ほとんど共通点がありません。

しかし、

「名古屋へ行ったら食べたいもの」

として一つのブランドにまとめる。

すると観光客にとって非常に分かりやすくなります。

「名古屋めしを食べよう」

という旅行目的ができる。

一泊では食べ切れない。

次は何を食べよう。

別の店にも行ってみよう。

料理が多いこと自体が、街を回遊する理由になる。

これは観光資源として、とても強い構造です。

「名物が多すぎる」ことが、名古屋の観光価値になる

普通なら、地域の看板料理は一つに絞ったほうが分かりやすいと思うかもしれません。

しかし名古屋は逆です。

名物が多い。

だから、

昼はひつまぶし。

夜は手羽先。

翌朝はモーニング。

昼は味噌煮込みうどん。

帰る前に小倉トースト。

という旅ができます。

一つの名物だけなら、一度食べれば終わる。

しかし名古屋めしは、

「まだ食べていないものがある」

を作る。

これは、観光地として非常に面白い強みです。

食文化の多様性そのものが、

滞在時間や再訪理由

にもつながる可能性があります。

三英傑がいなくても、名古屋めしは生まれた

最初に、三英傑の話をしました。

織田信長。

豊臣秀吉。

徳川家康。

名古屋・尾張を語るうえで、これ以上ない歴史資源です。

しかし現在の名古屋めしの多くは、

三英傑とはほとんど関係ありません。

ここが、私はとても面白いと思います。

地域資源というと、

歴史。

伝統。

文化財。

有名人。

そうした「昔からあるもの」を探しがちです。

しかし名古屋を見ると、

地域の魅力は、今の人たちが新しく作ることもできる。

一軒の飲食店の商品が、数十年後には地域名物になる。

周辺地域から入ってきた料理が、街を代表する料理になる。

喫茶店のサービス競争が、観光客が体験したい文化になる。

地域文化は、

昔から受け継ぐものだけではなく、今も作られ続けているもの

なのです。

名物は、最初から名物として生まれるわけではない

ここまで名古屋めしを見てきて、一つ強く感じたことがあります。

名物は、

「名物を作ろう」

と言った瞬間に名物になるわけではありません。

誰かが料理を作る。

お客様が食べる。

店が工夫する。

人気になる。

周囲へ広がる。

地域の人が食べ続ける。

街が面白がる。

名前が知られる。

外から人がやって来る。

その積み重ねによって、

後から「名物」になる。

名古屋では、この循環が何度も起きてきたように見えます。

名古屋の本当の名物は、「名物を作る力」なのかもしれない

名古屋には、昔からの食文化があります。

外から入ってきた文化もあります。

一軒の店から生まれた料理もあります。

周辺地域で生まれたものもあります。

それらを、

生み出す。

取り込む。

工夫する。

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