なぜ観光客は「あの店で食べたい」と思うのか?
旅行先で食事をするとき、多くの人はお店を探します。
「高山で美味しいランチはどこだろう。」
「箱根で何を食べよう。」
「群馬へ行ったら、何か美味しいものはないかな。」
Googleで検索したり、SNSを見たり、口コミを調べたりする。
そして、いくつかのお店を比較して、
「ここにしよう。」
と決めます。
ところが、繁盛店を見ていると、少し違った選ばれ方をしている店があります。
「何を食べよう。」ではありません。
最初から、
「国八食堂に行きたい。」
「田むら銀かつ亭に行きたい。」
「永井食堂に行きたい。」
と、店名で選ばれているのです。
なぜ、お客様は数ある飲食店の中から、
「あの店で食べたい。」
と思うようになるのでしょうか。
「何を食べるか」と「どこで食べるか」は違う
例えば、
「ラーメンを食べたい。」
というお客様がいるとします。
この段階では、お客様が求めているのは料理です。
検索するのも、
「高山 ラーメン」
「高山 ランチ」
かもしれません。
その検索結果の中から、価格や口コミ、写真、場所などを比較してお店を選びます。
つまり、
料理やジャンルが先にあって、そのあとに店を選んでいます。
でも、
「あの店へ行きたい。」
となると違います。
他の店と比較していません。
「今日は何を食べよう。」
から始まるのではなく、
「あそこで食べよう。」
から始まっています。
私は、この違いは飲食店にとって非常に大きいと思っています。
繁盛店は「店名」で選ばれている
全国の繁盛店を見ていると、
料理名ではなく、店名そのものがお客様の頭に浮かぶ店があります。
「国八食堂へ行こう。」
「田むら銀かつ亭へ行こう。」
「永井食堂へ行こう。」
もちろん、そこには看板料理があります。
その料理が食べたいという気持ちもあるでしょう。
でも、長く繁盛している店は、
単に、
「豆腐ステーキが食べたい。」
「豆腐かつ煮が食べたい。」
「もつ煮が食べたい。」
だけではなく、
「あの店の、あれが食べたい。」
という状態になっています。
料理と店が、お客様の中で一つになっているのです。
看板メニューが「店を選ぶ理由」になる
以前、看板メニューについて、
看板メニューは、その店を選ぶ理由をつくるもの
という話をしました。
ここでも同じことが起きています。
何でも美味しい店。
いろいろな料理がある店。
もちろん、それも魅力です。
でも観光客は、知らない土地でたくさんのお店の中から一軒を選ばなければなりません。
そのとき、
「あの店といえば、これ。」
がある店は強い。
国八食堂なら、あの料理。
田むら銀かつ亭なら、あの料理。
永井食堂なら、あの料理。
商品が店の顔になり、
やがて、
商品を思い出すと店名が浮かぶ。
反対に、
店名を聞くと商品が浮かぶ。
そんな関係ができていきます。
「美味しい店」だけでは、店名までは覚えてもらえない
観光地には、美味しい店がたくさんあります。
でも旅行から帰ったあと、
「あの店、美味しかったよ。」
と言いながら、店名を覚えていないことがあります。
これは珍しいことではありません。
一方で、
「高山へ行ったら国八食堂。」
「箱根へ行ったら田むら銀かつ亭。」
というように、店名まで記憶される店があります。
この違いは何でしょうか。
私は、
「何が特徴の店なのか」が明確であること
が大きいと思っています。
料理。
店構え。
歴史。
雰囲気。
名物。
行列。
体験。
いろいろな要素があります。
でも最終的に、
「あの店って、こういう店だよね。」
と一言で思い出せる。
だから記憶に残ります。
一つの強い特徴が、店全体を覚えてもらう入口になる
これは以前、寿司屋のマグロの話でも考えました。
マグロに徹底的にこだわる。
マグロの仕入れを伝える。
マグロの美味しさを伝える。
するとお客様は、
「これだけマグロにこだわっている店なら、他の寿司も美味しいだろう。」
と考えてくれます。
つまり、
一つの強い特徴が、店全体への期待につながります。
観光地の繁盛店も同じです。
すべてを伝えようとする必要はありません。
まず、
「この店といえば、これ。」
をつくる。
それがお客様に伝わり、
店名と結びつき、
やがて、
「あの店で食べたい。」
へ変わっていきます。
口コミも「美味しかった」から「店名」に変わる
店名で覚えてもらうことには、もう一つ大きな意味があります。
人に紹介しやすくなることです。
「あの辺に美味しい店があったよ。」
よりも、
「高山へ行くなら国八食堂へ行ってみて。」
「箱根なら田むら銀かつ亭へ行ってみたら。」
のほうが、次のお客様につながります。
観光客は、旅行前にたくさん情報を集めます。
友人に聞く。
SNSを見る。
Googleで調べる。
旅行ブログを見る。
その中で、
具体的な店名が何度も出てくる。
すると、
「そんなに有名なら行ってみよう。」
となります。
そして実際に訪れた人が、また店名を誰かに伝える。
こうして、
店名そのものが集客力を持つようになります。
「人気だから行く」だけではない
もちろん、有名だから選ばれるという側面もあります。
行列がある。
口コミが多い。
SNSでよく見る。
テレビに出ている。
そうした情報は、
「この店なら間違いなさそう。」
という安心につながります。
でも、それだけでは、
「あの店で食べたい。」
という強い気持ちにはなりません。
人気があることに加えて、
「そこで何を食べられるのか。」
「どんな体験ができるのか。」
「なぜその店なのか。」
が必要です。
だから繁盛店は、
単に認知度が高い店ではありません。
選ぶ理由が、店名と一緒に記憶されている店
なのだと思います。
「検索される店」から「指名される店」へ
私は、観光地の飲食店には、
「検索結果の中から選ばれること」
だけを目標にしてほしくありません。
もちろん、
「高山 ランチ」
「箱根 グルメ」
などで検索されたときに見つけてもらうことは大切です。
でも、その先があります。
最初から、
店名で検索される店になることです。
「何を食べよう。」
から、
「あの店へ行こう。」
へ。
これは、
検索される店から、指名される店への変化
だと思います。
指名されるようになれば、競合との比較そのものが少なくなります。
価格だけで比較されにくくなる。
多少並んでも待ってもらえる。
少し場所が不便でも来てもらえる。
その店を旅程に組み込んでもらえる。
観光地の飲食店にとって、これは非常に大きな強みになります。
観光地に来たら「あの店へ行こう」
観光地には、多くの飲食店があります。
だからこそ、
「どこか美味しい店へ行こう。」
という状態のままでは、毎回たくさんの店と比較されます。
でも、
「あの店へ行こう。」
になれば違います。
その店を選ぶ理由が、すでにお客様の中にあります。
だから私は、
観光地の飲食店には、
「何を売るか」だけでなく、「何の店として覚えてもらうか」
を考えてほしいと思っています。
そして最終的には、
店名そのものが、お客様にとって選ぶ理由になる。
そこまで店を育てることができれば、とても強いと思います。
原島純一の視点
私は全国の繁盛店を訪れるとき、
「この店は、なぜこんなに遠くからお客様が来るのだろう。」
と考えます。
もちろん料理は美味しい。
でも、美味しい店なら他にもあります。
それでも、
「国八食堂に行きたい。」
「田むら銀かつ亭に行きたい。」
「永井食堂に行きたい。」
と店名で選ばれる。
そこには必ず、
「その店を選ぶ理由」
があります。
看板料理かもしれません。
店の歴史かもしれません。
独特の雰囲気かもしれません。
そこでしかできない体験かもしれません。
そして、それらが店名と結びついたとき、
お客様の中で、
「美味しい店」から「あの店」へ変わります。
私は、ここがとても大切だと思っています。
観光地にはたくさんの飲食店があります。
その中から検索して選んでもらうことも大切です。
でも、その先には、
最初から店名で選ばれる店になる
という世界があります。
「何を食べよう。」から、「あの店で食べたい。」へ。
私は、観光地の飲食店には、そんなふうにお客様から指名される店を目指してほしいと考えています。
