飛騨高山、金沢、鎌倉、川越、湯布院など、全国の観光地で存在感を増している「ワンハンドグルメ」。
その人気の理由は、単に歩きながら食べられる便利さだけではありません。
観光客は、限られた時間と胃袋の中で、その土地ならではの味を少しずつ、できるだけ多く楽しもうとしています。
ワンハンドグルメの広がりから見えてくるのは、観光客の「食べ方」そのものの変化です。
そしてその変化は、着席型の飲食店にとっても決して他人事ではありません。
なぜ観光地では「ワンハンドグルメ」が流行っているのか?
最近、全国の観光地を歩いていると、以前と比べて明らかに増えたものがあります。
それが、**片手で持って楽しめる「ワンハンドグルメ」**です。
飛騨高山、金沢、鎌倉、川越、湯布院など、人気観光地を歩いていると、肉や海鮮、串物、スイーツなど、さまざまなワンハンドグルメを見かけるようになりました。
そして、その店頭には多くの観光客が集まっています。
なぜ、観光地ではこれほどワンハンドグルメが支持されるのでしょうか。
単に「歩きながら食べられるから」だけではありません。
そこには、観光客の旅の楽しみ方そのものの変化があると私は考えています。
観光客は、いろいろなものを少しずつ楽しみたい
せっかく観光地まで来たのですから、観光客には食べてみたいものがたくさんあります。
飛騨高山へ行けば、飛騨牛も食べたい。
その土地ならではのお団子やスイーツも気になる。
金沢へ行けば、海鮮も食べたい。
地酒も飲んでみたい。
その土地へ行かなければ味わえないものを、できるだけ多く体験したいと思うのは自然なことです。
しかし、ここには大きな制約があります。
胃袋には限界があります。
一軒の飲食店に入って、しっかりと一食を食べてしまえば、それだけでお腹はいっぱいになります。
ところがワンハンドグルメなら、少量ずつ楽しむことができます。
価格も一回の食事と比べれば少額であることが多いため、
「これも食べてみよう」
「せっかくだから、あれも食べてみよう」
と、いくつもの名物を楽しむことができます。
つまりワンハンドグルメには、
少額で、少量ずつ、その土地の魅力をいくつも体験できる
という、観光客にとって非常に大きな価値があるのです。
「食事」が観光の途中に組み込まれるようになった
以前の観光旅行では、
観光地を見て回り、お昼になったら飲食店へ入り、そこで食事をする。
食事が終わったら、また次の観光地へ向かう。
そんな行動が一般的でした。
つまり、「観光」と「食事」が比較的はっきりと分かれていました。
ところが現在の観光地を見ていると、その境界が曖昧になっています。
街を歩く。
気になる商品を見つける。
少し食べる。
また歩く。
別の商品を見つける。
また食べる。
食べることそのものが、街歩きの一部になっているのです。
だから私は、最近の観光客の食べ方を見ていると、
一軒の店で一食を楽しむだけではなく、街全体を一つのコース料理のように楽しんでいる
ように感じます。
これが、観光地でワンハンドグルメが増えている大きな理由の一つではないでしょうか。
ワンハンドグルメの増加は、着席型飲食店にとって脅威でもある
ワンハンドグルメが人気になっているのを見て、
「うちは食べ歩きの店ではないから関係ない」
と思ってはいけません。
むしろ、着席型飲食店ほど、この変化を考える必要があります。
なぜなら、先ほども書いたように、
胃袋には限界があるからです。
観光客が昼食前にいくつものワンハンドグルメを楽しめば、当然、その後に食べられる量は減ります。
「結構食べたから、お昼は軽くていいね」
となることもあるでしょう。
つまり、観光地の飲食店が競っている相手は、隣の飲食店だけではありません。
街中のワンハンドグルメも、スイーツも、土産店で販売されている食品も、すべてが観光客の胃袋を少しずつ使っています。
観光客が増えれば、すべての飲食店が潤うわけではありません。
観光客の人数だけを見るのではなく、その人たちが地域の中で、どのように食べているのかまで見なければならないのです。
流行っているからといって、真似をすればいいわけではない
では、着席型飲食店もワンハンドグルメを販売すればよいのでしょうか。
私は、そう単純な話ではないと思っています。
立地条件も違えば、業態も違います。
客単価も違います。
その店がこれまで築いてきたブランドもあります。
ワンハンドグルメが流行っているからといって、すべての飲食店が同じことをする必要はありません。
大切なのは、何が流行っているのかを見ることではなく、なぜそれが選ばれているのかを考えることです。
ワンハンドグルメには、
少量で楽しめる。
少額で試せる。
いろいろなものを食べられる。
街歩きを続けながら楽しめる。
という価値があります。
では、着席型飲食店には、どんな価値があるのでしょうか。
繁盛店は「店内で過ごす時間」に力を入れている
観光地の繁盛店を見ていると、料理だけで勝負しているわけではないことに気づきます。
店に入ったときの雰囲気。
その土地らしさを感じられる空間。
料理が出てくるまでの期待。
そこでしか味わえない体験。
そして、食事を終えて店を出たあとに残る思い出。
店内で過ごす時間そのものに価値があります。
ワンハンドグルメには、ワンハンドグルメだからこその魅力があります。
一方で、着席型飲食店には、店内に入り、一定の時間をそこで過ごすからこそ提供できる価値があります。
だから繁盛店は、料理そのものだけではなく、店内で過ごす時間や、その店でしか得られない体験価値に力を入れているのです。
原島 純一の視点
観光地を歩いていると、新しい商品や新しい業態が次々に生まれています。
そのとき大切なのは、
「最近はこれが流行っている」
で終わらせないことです。
なぜ、お客様はそれを選んでいるのか。
そこまで考えることで、自店が何を磨くべきなのかが見えてきます。
ワンハンドグルメが支持されているからといって、すべての店がワンハンドグルメを始める必要はありません。
むしろ着席型飲食店だからこそ提供できる価値があります。
観光地の飲食店が提供しているのは、料理だけではありません。
その店で過ごした時間も含めて、旅の思い出になります。
だからこそ、料理だけではなく、「この店で過ごして良かった」と思ってもらえる時間や体験をつくることが、これからますます重要になる。
私は、そのように考えています。
