飲んだ後の「締め」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
ラーメン。
お茶漬け。
そば。
そのあたりが一般的だと思います。
ところが札幌には、
「最後はパフェで締める」
という食文化があります。
いまでは「シメパフェ」と呼ばれ、札幌観光の定番グルメの一つとして紹介されるほどになりました。
札幌観光協会も、飲食の最後にパフェを楽しむ文化を札幌発祥の食文化として発信しています。
でも、考えてみると不思議です。
パフェ自体は、札幌だけの食べ物ではありません。
東京にも大阪にもあります。
アイスクリームも、果物も、全国にあります。
それなのに、
なぜ札幌では、
「パフェを食べること」ではなく、
「夜の最後にパフェを食べること」
そのものが名物になったのでしょうか。
調べていくと、ここには観光地の飲食店にとって、とても面白いヒントがありました。
新しい料理を発明したわけではない。
昔からあった行動に名前をつけた。
すると、その行動そのものが、
街を体験する商品になったのです。
実は「シメパフェ」という言葉より先に、習慣があった
札幌のシメパフェを調べていて、まず面白かったのがここです。
「シメパフェ」という言葉ができたから、札幌の人が夜にパフェを食べ始めたわけではありません。
札幌の観光メディアによると、すすきの周辺には以前から深夜まで営業する店があり、飲んだ帰りにパフェを食べたり、酒と一緒に楽しんだりする習慣が存在していました。
ただし、その文化がいつ、誰によって始まったのかについては、明確な記録が残っているわけではないとされています。
私は、ここがすごく重要だと思います。
最初から、
「札幌の新しい名物を作ろう」
「観光客向けにパフェを売ろう」
と始まったわけではない。
夜の街の中で、
飲んだ後に甘いものを食べる人がいた。
それに応える店があった。
そして、その行動が少しずつ街の中に蓄積されていった。
つまり、
文化が先で、ブランドは後だった。
2014年頃、「シメパフェ」という名前が生まれた
転機になるのが2014年頃です。
この頃から「シメパフェ」という言葉が使われるようになり、2015年9月には「札幌パフェ推進委員会」が発足。
賛同する店舗で「札幌シメパフェ」というブランドを立ち上げ、本格的に普及活動を始めました。
ここで起きたことは、
パフェそのものを新しくしたことではありません。
「食べるタイミング」に名前をつけた。
これです。
昼に食べれば、ただのパフェ。
喫茶店で食べても、パフェ。
デザートとして食べても、パフェ。
でも、
夜、食事やお酒を楽しんだ最後に食べれば、
「シメパフェ」になる。
料理は同じでも、
利用シーンに名前をつけるだけで、意味が変わります。
これは飲食店の商品開発として、ものすごく面白い考え方です。
「何を食べるか」ではなく、「いつ食べるか」を商品にした
飲食店の商品開発というと、
新しい料理を考える。
新しい食材を使う。
盛り付けを変える。
価格を変える。
そういう発想になりがちです。
でもシメパフェは、少し違います。
売ったのは、
パフェという商品だけではありません。
「札幌で飲んだ夜の最後に、パフェを食べる」
という行動そのものです。
たとえば観光客が札幌へ行ったとします。
夕食に海鮮を食べる。
すすきので飲む。
そのあと、
「札幌に来たからシメパフェを食べよう」
となる。
ここではもう、
単純に「甘いものが食べたい」からパフェを選んでいるわけではありません。
札幌らしい夜を体験するために食べている。
商品が「パフェ」から、
「札幌の夜の締め方」
へ変わっているのです。
夜に食べるから、パフェそのものも変わった
さらに面白いのは、
利用シーンが変わると、商品も変わっていったことです。
一般的な喫茶店のパフェなら、
アイスクリーム。
フルーツ。
生クリーム。
チョコレート。
そんな構成を想像します。
しかし札幌の夜パフェでは、
酒との相性を考えたもの、
苦味や酸味を組み合わせたもの、
焼き菓子やムース、ジュレなどを使ったものなど、
より大人向けの商品が増えていきました。
札幌観光協会の紹介でも、専門のパティシエが焼き菓子などを組み合わせ、立体的で独創的なパフェを作る店や、アルコールとのペアリングを前提にした店が紹介されています。
つまり、
「夜に食べる」
という利用シーンを決めたことで、
パフェそのものの商品開発まで変わっていった。
これも大切なポイントです。
商品を先に作ってから、
「誰に売ろうか」
「いつ売ろうか」
と考えたのではない。
「夜の締め」という場面が先にあり、
その場面に合う商品へ進化していった。
飲食店の商品開発は、
必ずしも料理から考えなくてもいいということです。
パフェを「女性や子どもの食べ物」から解放した
札幌のシメパフェが広がった理由として、もう一つ興味深い点があります。
札幌の観光メディアでは、夜まで営業する店が酒に合うパフェを開発したことで、それまでパフェを注文しづらかった働き盛りの男性にも広がったという関係者の見方を紹介しています。
これも面白い。
パフェという商品には、
長い間、
「喫茶店」
「昼」
「女性」
「子ども」
といったイメージがありました。
ところが、
「飲んだ後の締め」
という利用シーンを与えた途端、
サラリーマンでも、
男性同士でも、
大人でも、
注文しやすくなる。
料理そのものは大きく変わらなくても、
注文する理由が変われば、客層まで変わる。
これは飲食店にとって、とても大きな示唆があります。
そして、パフェはSNSと非常に相性がよかった
シメパフェが広がった時期も重要です。
2010年代はInstagramなどのSNSが急速に広がった時代でもあります。
パフェは、
高さがある。
色がある。
グラスの中に層がある。
果物がある。
盛り付けで店ごとの違いも出しやすい。
つまり、
写真にしたときに非常に強い商品です。
札幌パフェ推進委員会の関係者も、シメパフェが広がった要因としてSNSとの相性を挙げています。
しかもSNSで投稿すると、
単にパフェの写真だけでは終わりません。
「札幌旅行」
「すすきの」
「飲んだ後」
「シメパフェ」
という物語まで一緒に投稿されます。
料理の写真が、
街の体験を伝える写真になる。
ここまで来ると、観光コンテンツとして非常に強い。
店だけでなく、街全体が「夜」を売れるようになった
現在、札幌観光協会は夜の札幌を楽しむモデルコースの中に、シメパフェを組み込んでいます。
ディナー。
夜景。
シメパフェ。
バー。
ラーメン。
こうして「札幌の夜」そのものを一つの観光体験として紹介しています。
さらに現在では専門店だけでなく、飲食店やバル、観光施設でもシメパフェが提供されています。
札幌中心部の都市型水族館AOAO SAPPOROでも、夜の時間帯に季節のシメパフェが提供されています。
これは、かなり大きな変化です。
最初は、
夜にパフェを食べる人がいた。
次に、
パフェを出す店が増えた。
そこへ、
「シメパフェ」という名前がついた。
そして今度は、
観光施設までその文化を使うようになった。
つまり、
一つの店の商品から、街全体の利用シーンへ広がった。
北海道だから成立した、だけでは説明できない
札幌のパフェを語るとき、
北海道は乳製品がおいしいから、
という説明をしたくなります。
もちろん、北海道と乳製品のイメージは相性がいい。
それも商品の魅力を支える要素でしょう。
でも、それだけでは「シメパフェ」は説明できません。
乳製品は以前からあった。
アイスクリームも以前からあった。
パフェも以前からあった。
それなのに、
「札幌の名物」として広がったのは最近です。
つまり重要だったのは、
食材だけではなく、
「いつ食べるのか」という意味づけだった。
北海道だからパフェが生まれた、ではない。
札幌の夜の街にあった行動を見つけ、
そこに名前をつけ、
店が商品を磨き、
それを街全体で発信した。
その結果、
パフェが札幌らしい食文化になった。
そう考えたほうが、この事例は面白いと思います。
街から学ぶ|新商品を作らなくても、新しい需要は作れる
飲食店の相談を受けていると、
「新商品を作らないと集客できない」
という話になることがあります。
でもシメパフェを見ると、
必ずしもそうではありません。
パフェは昔からありました。
新しく発明した料理ではありません。
変えたのは、
食べる意味です。
昼に食べるデザートだったものを、
夜の締めにした。
ただのパフェだったものを、
「札幌の夜を終える料理」にした。
ここに名前をつけた。
すると、
新しい市場が生まれました。
「商品名」ではなく「利用シーン」に名前をつけてみる
これを飲食店に置き換えて考えると、面白いと思います。
たとえば、
午後3時に食べるもの。
仕事帰りに食べるもの。
観光からホテルへ戻る前に食べるもの。
朝、チェックアウト前に食べるもの。
ライブやイベントの後に食べるもの。
温泉に入った後に食べるもの。
商品そのものは、すでに店にあるものでも構いません。
でも、
その商品を食べる「時間」や「場面」に名前をつける。
すると、利用する理由ができます。
人は必ずしも、
「この料理が食べたい」
だけで店を選んでいるわけではありません。
「この時間だから」
「この旅行だから」
「この場面だから」
という理由でも選びます。
札幌のシメパフェは、
そのことをとても分かりやすく教えてくれます。
名物とは、「料理」ではなく「行動」でもいい
前回の札幌スープカレーでは、
バラバラだった料理に「スープカレー」という名前がつき、一つのジャンルになった話を書きました。
関東と関西のすき焼きでは、
違う歴史から生まれた料理が、同じ「すき焼き」という名前になっても地域差を残した話を書きました。
そして今回のシメパフェ。
ここでは、
料理ではなく、
人の行動に名前がついた。
札幌で飲む。
最後にパフェを食べる。
その一連の行動に、
「シメパフェ」という名前をつけた。
すると、
観光客までその行動を真似するようになった。
これは、名物づくりを考えるうえで、とても大きなヒントだと思います。
名物とは、
必ずしも新しい料理を発明することではない。
特別な食材を見つけることでもない。
もしかすると、
その街ですでに行われている「食べ方」に気づくこと。
そして、
その行動に名前をつけ、
店が磨き、
街で共有していくこと。
そこから、新しい食文化が生まれることもある。
札幌の夜にパフェを食べる人たちを見ていると、
名物とは「何を食べるか」だけではなく、
「この街では、こう食べる。」
そこまで含めて作られていくものなのだと感じます。
