なぜ新潟には「5大ラーメン」もあるのか?

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なぜ新潟には「5大ラーメン」もあるのか?

新潟県には、「新潟5大ラーメン」と呼ばれるご当地ラーメンがあります。

新潟あっさり醤油ラーメン。

燕背脂ラーメン。

三条カレーラーメン。

新潟濃厚味噌ラーメン。

長岡生姜醤油ラーメン。

一つの県の中に、これだけ特徴の違うご当地ラーメンが存在しています。

最初は単純に、

「新潟県民は、よほどラーメンが好きなのだろう」

くらいに考えていました。

しかし、それぞれのラーメンが生まれた背景を調べてみると、もっと面白いものが見えてきます。

港町。

金属洋食器の街。

鍛冶・金物の街。

温泉街。

そして長岡という雪国の都市。

同じ新潟県でありながら、地域によって産業も暮らしも違います。

そして、それぞれの地域で暮らす人たちの生活に合わせるように、ラーメンも違う形へ進化してきました。

もしかすると、新潟に5大ラーメンがあるのは、単にラーメン店が多いからではありません。

新潟県の中に、それだけ異なる暮らしを持った地域が存在しているからなのではないでしょうか。

新潟あっさり醤油は「港町と屋台」から生まれた

まず、新潟あっさり醤油ラーメンです。

透明感のある醤油スープ。

細い麺。

昔ながらの中華そばを思わせる、シンプルな一杯です。

新潟県観光協会の情報では、そのルーツの一つとして新潟島の屋台文化が紹介されています。

新潟は北前船の寄港地として栄え、さらに開港五港の一つとなった港町です。

かつて新潟島には多くの堀があり、その周辺には屋台が並んでいました。

その屋台で提供されていたラーメンが、新潟あっさり醤油ラーメンのルーツとされています。

つまり、このラーメンの背景にあるのは、

港町 × 堀 × 屋台

という新潟の都市文化です。

ラーメンだけを見れば、シンプルな醤油ラーメンです。

しかし、その背景を知ると、

「港町で働き、行き交う人たちが屋台で食べていた一杯」

という街の景色まで見えてきます。

※新潟あっさり醤油ラーメンの歴史については、新潟県観光協会の公式観光情報などを参考にしています。

燕背脂ラーメンは「工場へ届けるため」に進化した

次は燕背脂ラーメンです。

大量の背脂。

濃い醤油味。

太い麺。

かなり力強いラーメンです。

しかし、なぜ燕では、このようなラーメンが生まれたのでしょうか。

その背景には、燕の産業があります。

燕は、金属洋食器や金属ハウスウェアの産地として知られています。

スプーン。

フォーク。

ナイフ。

鍋。

厨房用品。

現在でも日本を代表する金属加工の産地です。

そして燕背脂ラーメンは、こうした工場で働く職人たちへの出前需要の中で発達したとされています。

ここが、とても面白いところです。

工場へラーメンを出前する。

しかし、届けるまでに時間がかかれば、麺が伸びてしまいます。

そこで、伸びにくい太い麺にする。

スープが冷めてしまう。

そこで、表面を覆う背脂によって冷めにくくする。

そして、汗をかいて働く職人たちにも好まれるような濃い味になる。

つまり、

太麺も、背脂も、濃い味も、単なる個性的な商品開発ではなかった可能性があります。

工場で働く人たちに、できるだけ美味しい状態でラーメンを届けたい。

その地域の働き方に合わせてラーメンが進化した結果、現在では全国から食べに来る人がいるローカルフードになったのです。

※燕背脂ラーメンの成立背景については、新潟県観光協会などの公式観光情報を参考にしています。

「燕三条」と呼ばれていても、燕と三条は同じ街ではない

ここで、もう一つ面白いことがあります。

燕市と三条市は隣り合っており、現在では「燕三条」という一つのものづくり地域として紹介されることも多くあります。

しかし、産業の歴史を見ていくと、それぞれ得意としてきたものが違います。

燕は、金属洋食器や金属ハウスウェア。

一方の三条は、和釘づくりなどを起点として発達した鍛冶・金物の街です。

包丁などの刃物。

鉋などの利器工匠具。

ペンチなどの作業工具。

現在では鍛造部品などにも広がっています。

大きく括れば、どちらも「ものづくりの街」です。

しかし、細かく見れば産業文化は違います。

そして面白いことに、

ラーメン文化まで違います。

三条では、鍛冶職人の活力源としてカレーラーメンが食べられた

三条のご当地ラーメンは、カレーラーメンです。

「なぜ、新潟でカレーラーメン?」

と思います。

しかし、三条市の公式情報を調べると、その背景にも地域産業が登場します。

三条市によると、カレーラーメンには80年以上の歴史があるとされ、鍛冶職人たちの活力源として出前でよく食べられてきたと紹介されています。

忙しい鍛冶職人たちが仕事を続けながら食べる。

その食事として、カレーラーメンが地域に根付いていった。

これも、観光客のために作られた料理ではありません。

働く人たちの日常食だったものが、後に地域を代表する食文化になったのです。

そして燕と三条を並べると、さらに面白い。

燕では、

金属洋食器・工場 × 出前 → 背脂ラーメン

三条では、

鍛冶・金物・職人 × 出前 → カレーラーメン

隣り合った二つのものづくりの街。

どちらにも職人がいて、どちらにも出前文化があった。

それでも、生まれたラーメンは違います。

地域文化には、一つの正解があるわけではないのです。

※三条カレーラーメンの歴史については、三条市公式情報などを参考にしています。

新潟濃厚味噌は「温泉街への出前」から独特の食べ方が生まれた

新潟濃厚味噌ラーメンも、かなり面白い歴史を持っています。

特徴は、その名の通り非常に濃厚な味噌スープです。

そして、もう一つ。

別の器に「割りスープ」が付いてきます。

そのまま濃厚な味を楽しんでもいい。

途中からスープを入れて、自分好みの濃さにしてもいい。

今では、この「割りスープ」まで含めて新潟濃厚味噌ラーメンの特徴になっています。

では、なぜこんな食べ方になったのでしょうか。

元祖とされる「こまどり」は、1970年代に濃厚味噌ラーメンの原型を作ったとされています。

新潟県観光協会などの紹介によると、当時、岩室温泉で営業していた店から宿泊客へ味噌ラーメンを出前したところ、

「味が濃い」

という声があった。

そこで、味を薄めるためのスープを届けた。

それが好評となり、店でも割りスープを求める人が増え、現在のスタイルにつながったとされています。

これも面白いですよね。

商品の個性である「濃厚な味噌」をなくしたわけではありません。

濃厚さは残す。

そのうえで、

お客様が自分の好みに調整できる方法を加えた。

その結果、割りスープという独特の食文化が生まれました。

ここでも、

温泉街 × 出前 × お客様の声

がラーメンを進化させています。

※新潟濃厚味噌ラーメンと割りスープの成立背景については、新潟県観光協会などの公式情報を参考にしています。

長岡生姜醤油は、なぜ生姜なのか

最後は、長岡生姜醤油ラーメンです。

濃い醤油色のスープに、生姜の香り。

長岡を代表するご当地ラーメンとして知られています。

元祖として知られるのが「青島食堂」です。

ここでよく語られるのが、

「雪国の長岡で、身体を温めるために生姜を入れた」

という説明です。

確かに、長岡は雪深い地域ですし、生姜には身体を温めるイメージがあります。

しかし、今回いろいろと調べてみると、ここは少し慎重に考えたほうがよさそうです。

長岡生姜醤油ラーメンが青島食堂などを中心に地域へ定着していったことは広く紹介されています。

一方で、

「雪国だから身体を温めるために生姜を入れたことが発祥である」

とまで明確に裏付ける一次的な資料は、簡単には確認できません。

だから、この記事では無理に物語を作らないことにします。

ただ、一つ確かなのは、

生姜を効かせた醤油ラーメンが長岡で長く食べられ、地域を代表する味として定着している

ということです。

地域文化には、すべて明確な「発明の日」が残っているわけではありません。

長い時間をかけて食べ続けられ、

「長岡へ行ったら、これを食べたい」

と思われるようになる。

それ自体が、地域文化が育った証拠なのだと思います。

※長岡生姜醤油ラーメンについては、新潟県観光協会などの公式観光情報を参考にしています。生姜を使用する理由については諸説があるため、本記事では特定の説を発祥理由として断定していません。

5大ラーメンを並べると、新潟の街が見えてくる

こうして5つのラーメンを並べてみると、ラーメンの紹介をしているはずなのに、新潟県のさまざまな街の姿が見えてきます。

新潟あっさり醤油。

港町 × 堀 × 屋台。

燕背脂。

金属洋食器 × 工場 × 出前。

三条カレー。

鍛冶・金物 × 職人 × 出前。

新潟濃厚味噌。

温泉街 × 出前 × お客様の声。

長岡生姜醤油。

長岡で長く受け継がれてきた地域の味。

同じ新潟県です。

同じラーメンです。

しかし、背景にある街の歴史や暮らしはまったく違います。

だから、出来上がったラーメンも違う。

文化、風土、産業、暮らしが違えば、同じ料理でも違う食文化になる。

新潟5大ラーメンは、それを非常に分かりやすく見せてくれます。

「出前」がラーメンを進化させたのも面白い

そして今回調べていて、私が特に面白いと思ったのが「出前」です。

燕では、工場へ届ける。

三条では、職人へ届ける。

岩室では、温泉宿へ届ける。

ラーメンというと、現在では店へ行って食べるイメージが強いですが、地域によっては、

「誰かのところへ届ける料理」

でもありました。

届けるなら、問題が起きます。

麺が伸びる。

スープが冷める。

食べる人によって、味の好みが違う。

そうした問題に対応するために、さまざまな工夫が生まれます。

太い麺にする。

背脂を入れる。

濃い味にする。

好みに合わせられるよう、割りスープを付ける。

つまり、料理は「何を作るか」だけで進化するのではありません。

誰に、どこで、どのように提供するのかによっても進化するのです。

これは飲食店の商品開発を考えるうえでも、とても興味深いことだと思います。

新商品を考えるとき、

「どんな食材を使おう」

「どんな味にしよう」

と考えることは多いでしょう。

しかし、

「誰が、どんな状況で食べるのか?」

から考えると、商品そのものが変わることがあります。

燕背脂ラーメンは、そのことを非常に分かりやすく教えてくれます。

地域を大きく括りすぎると、本当の地域性が見えなくなる

そして、もう一つ感じることがあります。

「新潟県の食文化」

という言葉だけで考えていたら、5大ラーメンの面白さは見えてきません。

もっと細かく見る。

新潟島では、どんな街の歴史があったのか。

燕では、どんな産業が発達したのか。

三条では、どんな職人が働いていたのか。

岩室では、どんなお客様を相手に商売をしていたのか。

長岡では、どんな味が長く愛されてきたのか。

そこまで細かく見て初めて、地域ごとの違いが見えてきます。

燕と三条など、隣り合った街です。

現在は「燕三条」という一つのものづくり地域として知られています。

しかし産業を細かく見れば、

燕は金属洋食器や金属ハウスウェア。

三条は鍛冶・金物、刃物、工具。

それぞれ違う歴史を持っています。

そして、ラーメンまで違う。

地域を大きく括りすぎると、その土地の本当の面白さを消してしまうことがある。

これは地域資源を考えるときに、忘れてはいけない視点だと思います。

地域ブランドは、一つに統一しなくてもいい

地域ブランドを作ろうとすると、

「この県を代表する名物を一つ決めよう」

と考えてしまうことがあります。

一つのほうが、分かりやすいからです。

しかし、新潟5大ラーメンを見ると、別の考え方もできます。

無理に一つへ統一しない。

それぞれの地域に、それぞれの文化を残す。

そのうえで、

「新潟には、こんなに違うラーメン文化があります」

と束ねる。

これも立派な地域ブランドです。

むしろ、

「あっさり醤油もあります」

「背脂もあります」

「カレーもあります」

「濃厚味噌もあります」

「生姜醤油もあります」

という違いそのものが、

「なぜ一つの県に、こんなに違うラーメンがあるんだ?」

という興味を生みます。

一つの味に統一するのではなく、

違いそのものを価値にする。

新潟5大ラーメンというブランドは、その面白さを教えてくれます。

地域ごとの違いが、観光客を動かす

そして、複数のローカルフードが存在することは、観光という面でも面白い効果があります。

もし新潟県全体に一つしかラーメン文化がなければ、一度食べれば満足するかもしれません。

しかし、地域によって違う。

燕へ行ったら背脂ラーメンを食べたい。

三条へ行ったらカレーラーメンを食べたい。

長岡へ行ったら生姜醤油ラーメンを食べたい。

新潟市へ行ったら、あっさり醤油や濃厚味噌も食べたい。

すると、

「別の街へ行って、別のラーメンも食べてみたい」

という理由が生まれます。

食文化の違いが、地域を移動する動機になるのです。

これは観光地域にとって、とても大きな意味があります。

一つの有名店にお客様を集めるだけではない。

一つの観光地だけで完結させるのでもない。

地域ごとの違いが、周遊する理由になる。

ローカルフードには、そんな力もあります。

5杯のラーメンではなく、5つの地域を食べ歩く

そう考えると、新潟5大ラーメンを食べ歩くことの意味も変わってきます。

単に、

「5種類のラーメンを制覇した」

というだけではありません。

燕で背脂ラーメンを食べれば、その後ろに金属加工の街があります。

三条でカレーラーメンを食べれば、鍛冶や金物の歴史があります。

新潟あっさり醤油を食べれば、港町と屋台の記憶があります。

濃厚味噌を食べれば、温泉街への出前から生まれた食べ方があります。

長岡で生姜醤油ラーメンを食べれば、その土地で長く愛されてきた味に触れることができます。

つまり、

5杯のラーメンを食べ歩いているようで、実は5つの地域を食べ歩いている。

私は、そこにローカルフードの面白さがあると思います。

ローカルフードを食べることは、その土地の暮らしを少しだけ体験すること

観光客向けに新しく作られた料理だけが、観光商品ではありません。

むしろ面白いのは、

その土地の人たちが働くために食べてきたもの。

暮らしの中で工夫してきたもの。

地域の産業に合わせて変化したもの。

お客様の声を聞きながら改良してきたもの。

そうした日常食が、長い時間をかけてローカルフードになっていくことです。

そして今度は、外から来た私たちがそれを食べる。

すると、

「美味しいラーメンだった」

だけではなく、

「この街では、なぜこのラーメンなんだろう?」

という興味が生まれます。

そこから産業を知る。

街の歴史を知る。

人々の暮らしを知る。

ローカルフードを食べることは、その土地の暮らしを少しだけ体験することなのかもしれません。

だから観光地の食は面白いのです。

文化、風土、産業が食文化をつくる

今回、新潟5大ラーメンを調べてみて改めて感じたことがあります。

食文化は、料理人だけが作るものではありません。

その土地の文化がある。

風土がある。

産業がある。

そこで働く人がいる。

暮らしている人がいる。

商売の方法がある。

お客様がいる。

そうしたものが長い時間をかけて料理と結びつき、地域独自の食文化になっていく。

そして、その食文化がローカルフードとして知られるようになる。

さらに外から人が訪れ、

「この土地へ来たら、これを食べたい」

と思うようになる。

地域の日常だった料理が、いつしか観光の楽しみになる。

新潟5大ラーメンは、その流れを非常に分かりやすく見せてくれます。

新しい名物を作る前に、その地域の暮らしを見てみる

地域活性化では、

「新しい名物を作ろう」

という話がよく出ます。

もちろん、新しい商品を作ることも大切です。

しかし、その前に見てほしいものがあります。

この地域では、昔から何を食べてきたのか。

どんな産業があったのか。

どんな人たちが働いてきたのか。

どんな方法で料理を提供してきたのか。

どんな料理が出前されていたのか。

地元の人が当たり前だと思っている食べ方はないか。

そこを掘り下げていく。

すると、

すでに地域の中に、ローカルフードの種が存在しているかもしれません。

そして、それを無理に一つへ統一する必要もありません。

地域ごとに違うなら、その違いを残せばいい。

むしろ、

「なぜ隣町なのに違うんだろう?」

ということ自体が、観光客にとって面白い体験になります。

新潟5大ラーメンは、5種類のラーメンがあるというだけではありません。

新潟県の中に、それだけ異なる文化、風土、産業、暮らしを持つ地域があることの表れなのだと思います。

そして、その違いを食べ比べられること。

それこそが、新潟を旅する一つの楽しみになっているのではないでしょうか。

この記事で参考にした主な情報

この記事では、新潟5大ラーメンの特徴や成立背景について、以下の地域公式情報などを中心に確認しています。

・新潟5大ラーメン全般:新潟県観光協会公式観光情報

・新潟あっさり醤油ラーメン:新潟県観光協会公式観光情報

・燕背脂ラーメン:新潟県観光協会、燕地域の公式情報など

・燕・三条の産業:燕市、三条市、燕三条地場産業振興センターなどの公式情報

・三条カレーラーメン:三条市公式情報

・新潟濃厚味噌ラーメン:新潟県観光協会などの公式情報

・長岡生姜醤油ラーメン:新潟県観光協会などの公式観光情報

※ローカルフードの発祥や由来には、複数の説や後世に広まった説明が存在する場合があります。本記事では特定の説を安易に史実として断定せず、行政・観光関連団体などが公表している情報を中心に確認しながら、地域の文化・産業・暮らしと食との関係について考察しています。

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