名古屋という街は、不思議です。
名古屋めしと呼ばれる料理を少し挙げるだけでも、
味噌カツ。
味噌煮込みうどん。
きしめん。
ひつまぶし。
手羽先。
台湾ラーメン。
あんかけスパ。
小倉トースト。
天むす。
エビフライ。
そして、モーニングをはじめとする喫茶店文化。
これだけ出てきます。
日本各地にご当地グルメはありますが、一つの都市圏で、これほど異なるジャンルの食べ物が「地域の名物」として知られている街は珍しいのではないでしょうか。
なぜ、名古屋にはこれほど多くの名物があるのでしょうか。
最初は、
「歴史の古い街だから、昔からの郷土料理がたくさん残っているのだろう」
と思っていました。
何しろ、この地域は三英傑ゆかりの土地です。
織田信長。
豊臣秀吉。
徳川家康。
これほど強烈な歴史資源を持っている。
ところが、現在「名古屋めし」と呼ばれているものを一つずつ調べていくと、どうも様子が違います。
台湾ラーメン。
手羽先。
あんかけスパ。
小倉トースト。
天むす。
三英傑、ほとんど関係ありません。
むしろ、比較的新しい時代に生まれた料理や、一軒の飲食店から広がった料理、周辺地域から入ってきた料理まであります。
つまり名古屋は、
昔から名物がたくさんあった街というより、新しい名物を次々と生み、取り込み、育ててきた街なのではないか。
今回は、そんな視点から「名古屋めし」を考えてみたいと思います。
まず、名古屋には強烈な「味の土台」がある
もちろん、すべての名古屋めしが新しいわけではありません。
名古屋・愛知の食文化を考えるうえで欠かせないのが、
豆味噌
です。
愛知を中心とする東海地方では、古くから大豆を主原料とする豆味噌が作られてきました。
そして、その地域の味覚は一つの料理だけにとどまりません。
味噌煮込みうどん。
味噌おでん。
どて煮。
味噌カツ。
さまざまな料理に豆味噌が使われます。
ここで面白いのは、
一つの地域調味料が、複数の名物料理を生み出す土台になっている
ことです。
以前、おでんを調べたときにも出てきました。
全国共通のおでんという料理が名古屋へ来ると、味噌文化の中へ取り込まれ、味噌おでんになる。
つまり名古屋には、新しい料理を受け入れる前から、
「自分たちは、この味がおいしい」
という強い地域の味覚があった。
これが、後から入ってくる料理を「名古屋化」する力の一つになっているのかもしれません。
きしめんのように、昔から地域に根付いた料理もある
もう一つ、古くから尾張・名古屋周辺で食べられてきた代表的な麺料理が、きしめんです。
平たく幅広い麺。
だし。
醤油。
かつお節などを合わせて食べる。
きしめんの起源には諸説がありますが、江戸時代の文献にも平たい麺に関する記録があり、長く地域で食べられてきた料理です。
つまり名古屋には、
豆味噌やきしめんのように、長い時間をかけて地域に根付いてきた食文化
がまず存在しています。
ここまでは、一般的な郷土料理の街とそれほど変わりません。
ところが、名古屋が面白くなるのはここからです。
名古屋では「一軒の店の商品」が、次々と街の名物になる
名古屋めしを調べていくと、
「昔から地域の家庭で食べられていました」
では説明できない料理が次々と出てきます。
代表的なのが、
台湾ラーメン。
名前だけを聞けば、
「台湾の郷土料理が名古屋へ伝わったのだろう」
と思います。
ところが、現在名古屋名物として知られている台湾ラーメンは、台湾で昔から食べられてきた料理をそのまま持ってきたものではありません。
名古屋の台湾料理店で、台湾出身の店主が台湾の麺料理をヒントに作った料理が始まりとされています。
ひき肉。
唐辛子。
ニンニク。
ニラ。
そして強烈な辛さ。
それが店の人気商品になり、やがて周囲の店でも提供されるようになった。
そして現在では、
「名古屋へ行ったら台湾ラーメン」
と言われるほどの名物になっています。
面白いですよね。
台湾という名前なのに、
名古屋の食文化。
外から来た食文化を、そのままコピーしたわけではない。
名古屋の店で新しい料理にし、お客様が支持し、それが街へ広がった。
ここには、名古屋めしを考える大きなヒントがあります。
手羽先も「昔からの郷土料理」ではない
手羽先も同じです。
現在では、
名古屋=手羽先
というイメージがあります。
しかし、手羽先の唐揚げが何百年も前から尾張の家庭で食べられてきたわけではありません。
現在の名古屋名物として知られる手羽先唐揚げは、飲食店の商品として発展していった比較的新しい食文化です。
当時、必ずしも価値の高い部位として扱われていなかった手羽先。
そこに味付けをする。
揚げ方を工夫する。
酒に合う商品にする。
そして看板商品として売る。
つまり、
もともと存在した食材に、店が新しい価値を与えた。
それが支持され、店が増え、名古屋を代表する料理になっていった。
これも、
一軒の飲食店の商品が、街の食文化になる
というパターンです。
あんかけスパも、名古屋で生まれた「新しい洋食」
そして、あんかけスパ。
これも非常に名古屋らしい料理です。
太めのスパゲティ。
炒めた麺。
その上に、とろみのあるスパイシーなソース。
ウインナーや野菜、フライなどを組み合わせる。
イタリア料理のパスタとはかなり違います。
しかし、それでいい。
これは、
名古屋で生まれた洋食
だからです。
西洋から入ってきたスパゲティという料理を、そのまま本場風に提供するのではなく、地域のお客様に合わせて独自の商品にしていく。
そして人気店が生まれ、周囲へ広がり、
「あんかけスパ」という一つのジャンルになる。
ここでもまた、
外から来た料理を、そのままにしない
という現象が起きています。
名古屋には「あるものを、そのまま売らない」文化があるのか?
ここまでだけでも、少し共通点が見えてきます。
台湾料理を、そのまま売らない。
スパゲティを、そのまま売らない。
手羽先を、ただの部位のままにしない。
工夫する。
味を変える。
組み合わせる。
商品名をつける。
看板商品にする。
そして、お客様が面白がる。
売れる。
ほかの店も始める。
街へ広がる。
これを繰り返している。
私は、名古屋めしの多さを考えるうえで、
この「あるものを、そのままにしない」という力がかなり重要なのではないか
と思っています。
ただし、名古屋の面白さはこれだけではありません。
さらに調べていくと、
名古屋で生まれてすらいないのに、「名古屋名物」になった料理
まで出てきます。
ここから、さらに話が面白くなります。
