クルーズ船の寄港日に、きりたんぽを自分で作る――郷土料理を「食事」から「旅の記憶」へ

2026年10月29日、秋田港へのクルーズ船寄港に合わせ、秋田市では地域の食文化を楽しめる「きりたんぽ作り体験」が企画されました。秋田市文化創造館で受付を行い、日本料理店「御厨光琳」で参加者がきりたんぽを作る内容です。参加費は3,000円、午前10時30分から11時30分までの約60分。事前予約不要で案内され、形を整えたきりたんぽはお店で焼き上げる仕組みでした。

これまで食べてもらう商品だった郷土料理を、お客様自身が作る体験に変えていること。

ここで注目したいのは、きりたんぽという料理そのものではありません。観光地の飲食店にとって、考える価値のある取り組みです。

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郷土料理は、食べるだけではもったいない

観光地の飲食店には、長年受け継がれた調理方法や地域の食材、行事と結びついた食文化があります。しかし、こうした魅力は完成した料理として提供されることが中心です。

観光客にとっては、料理が完成するまでの過程にも魅力があります。きりたんぽなら、ご飯をつぶし、棒に巻き付け、形を整える。完成品を食べるだけでなく、自分で作ることが、記憶に残る体験になります。

「秋田できりたんぽを食べた」が「秋田で初めてきりたんぽを作った」に変わるのです。

料理の価値を、味だけでなく体験にまで広げる。 今回学びたいのは、この発想です。

3,000円の体験料金は、何に対して支払われるのか

3,000円という金額を料理の価格として考えると、高いか安いかという議論になりがちです。しかし、お客様が購入するのは食品だけではありません。自分で作る楽しさ、地域文化に触れる時間、旅先でしかできない経験も含まれています。

完成した料理を提供する場合と、料理人の説明を聞きながら作る場合では、提供価値が異なります。料理人の技術や知識、店の歴史まで商品価値に変えられる可能性があります。老舗飲食店が日常的に行う厨房の作業も、観光客にとっては貴重な体験かもしれません。

クルーズ船の寄港日だからこそ、時間の使い方が重要になる

クルーズ船の乗客は、寄港から出港までの限られた時間で観光します。短時間で地域らしさを感じられるプログラムが選択肢になります。

今回の体験は約60分。市内観光の途中で参加しやすい時間設定と考えられます。事前予約不要という仕組みも、当日の行動に合わせたい旅行者に利用しやすいものです。

観光客向けの商品を考える際は、料理だけでなく、滞在時間や移動経路まで考える必要があります。

観光客がいる時間に、参加できる長さで、地域らしい体験を提供する。

同じ郷土料理でも、42,000円の体験商品になる

秋田市では2026年7月9日のクルーズ船寄港に合わせ、別の「プレミアムきりたんぽ鍋作り体験」も企画されました。御厨光琳の総料理長による解説、調理、鍋料理の試食、秋田の発酵食品を使った料理や地酒などを組み合わせた内容です。参加費は42,000円、最大5名・最小催行人数2名の少人数制。秋田港からの送迎や訪問記念品も含まれました。

比較項目10月の体験7月のプレミアム体験
参加費3,000円42,000円
内容きりたんぽ作り・焼き上げ料理長の解説・調理・食事など
所要時間約60分体験部分約90分
参加方法事前予約不要少人数の予約型
特徴気軽な郷土料理体験送迎・食事を含む高付加価値体験

※公表された企画内容の比較です。参加実績や売上実績ではありません。

同じ郷土料理でも、サービスの組み合わせで異なる商品をつくれます。気軽に参加する体験と、料理人から直接学ぶ特別な体験。どちらにも求めるお客様がいます。

誰に、どのような体験を提供するのかによって、商品設計を変えることです。

まずは、できることから小さく始めてみる

体験型商品に特別な設備や大がかりな準備が必要とは限りません。料理人が目の前で調理を実演する。お客様に最後の仕上げだけを体験してもらう。地域の食材や料理の由来を説明する。普段の営業に少し工夫を加えるだけでも、新しい体験が生まれます。

老舗飲食店にとって当たり前の技術が、観光客にとっては初めての経験かもしれません。週末や観光客の多い日に限定して試してみるのもよいでしょう。

もちろん、体験に必要な準備時間やスタッフの負担、参加人数による採算も考える必要があります。だからこそ、まずは小さく試し、お客様の反応を見ながら商品として育てていくことが大切です。

老舗飲食店こそ、体験型商品を考える余地がある

観光地の老舗飲食店には、長年続けてきた料理や調理技術があります。しかし、その価値が完成した料理の価格に十分反映されているとは限りません。

地域の伝統料理をつくる技術、季節の食材を扱う知識、代々受け継いだ調理方法。普段の営業では当たり前でも、観光客にとっては初めて見る文化です。料理人が包丁を使う姿や食材について語る言葉も、旅先でしか出会えない体験になる可能性があります。

すべての調理工程を体験してもらう必要はありません。実演や簡単な仕上げ作業など、できることから工夫できます。受け継いだ技術を守るだけでなく、新しい商品価値として伝えることは、老舗飲食店の売上改善の一つの方向性です。

原島純一の視点――料理を売るのか、旅の思い出をつくるのか

観光地の飲食店を考えるとき、私は「お客様が何を食べたいのか」だけでなく、「その土地で何を経験したいのか」を考えることが重要だと思っています。

郷土料理を食べることは旅の楽しみです。しかし、自分で作ったり、料理人から話を聞いたりすれば、その土地への印象はさらに深まるかもしれません。

長年地域に根付いた老舗飲食店には、他店が簡単にはまねできない技術や文化があります。いつもの料理の一部をお客様に仕上げてもらう。目の前で調理しながら地域の歴史を紹介する。大がかりな設備がなくても、今ある技術を活かして新しい楽しみ方を提案できるはずです。

今回の秋田のきりたんぽ作り体験は、郷土料理を「食べるもの」から「自分で作るもの」へと広げた取り組みです。

私は、観光地の飲食店の売上改善とは、単に料理の価格を上げることではなく、これまで当たり前だと思っていた店の技術や文化を、お客様が価値を感じられる商品に変えていくことでもあると考えています。

郷土料理を食べた記憶だけでなく、その料理を自分で作った記憶が残る。そこに、観光地の飲食店が生み出せる新しい価値があるのではないでしょうか。

参考資料・出典

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