九十九里のビーチ清掃で500円券――観光地の「良い体験」を次の買い物へつなぐ

観光地では、毎年さまざまなイベントが開催されています。 祭り、花火大会、マルシェ、体験イベント。 地域の魅力を発信し、多くの人に足を運んでもらうための取り組みです。

しかし、飲食店経営の視点で考えると、ひとつ気になることがあります。

イベントに来た人は、その後、地域のお店に立ち寄っているのでしょうか。

イベント会場には多くの人が集まったのに、周辺の飲食店は普段と変わらなかった。 そんな経験を持つ経営者もいるのではないでしょうか。

今回注目したのは、千葉県九十九里町が案内した 「九十九里オーシャンデイ2026」です。

海岸清掃という地域への貢献活動と、地域での買い物を結びつけた取り組みです。

目次

ビーチ清掃に参加すると500円の商品券

九十九里町が2026年10月8日に公表した案内によると、 10月25日に開催予定の「九十九里オーシャンデイ2026」では、 ビーチクリーンへの参加者先着300人に、 海の駅九十九里で利用できる500円の商品券を配布する計画が示されました。

商品券の利用期間は10月25日と26日の2日間。 会場では焼き蛤の無料配布やキッチンカーの出店も予定されていました。

この取り組みで興味深いのは、商品券を単に配布するのではなく、 海岸清掃への参加という行動と結びつけていることです。

参加者は海をきれいにする活動を通じて地域に関わり、 そのお礼として地域の施設で使える商品券を受け取ります。

そして、商品券を使うために海の駅へ足を運ぶきっかけが生まれます。 ここに、観光地の集客を考えるうえで重要なヒントがあります。

イベントで人を集めることと、地域で消費してもらうことは違う

観光地のイベントでは、どうしても来場者数が成果として注目されます。 何千人集まった。前年より来場者が増えた。SNSで話題になった。 もちろん、こうした成果も大切です。

しかし、地域の飲食店や土産物店にとっては、 もうひとつ重要な数字があります。

イベントに来た人が、地域でどれだけ買い物や食事をしたのか。

例えば、イベントに1,000人が参加しても、 そのまま帰ってしまえば、周辺店舗への売上効果は限定的です。

反対に、参加者の一部でも地域の飲食店に立ち寄り、 食事や買い物を楽しめば、イベントの経済的な効果は広がります。

今回の500円商品券は、イベント参加者に 「次に立ち寄る場所」を具体的に示しています。

さらに、利用期間が2日間に設定されているため、 参加当日や翌日に買い物をする理由にもなります。

観光客の行動は、必ずしも自然に次の店舗へつながるわけではありません。 だからこそ、イベントの後に何をしてもらうのかを設計することが大切なのです。

500円の商品券は、500円の売上で終わるとは限らない

商品券の配布予定枚数は最大300枚です。 500円×300枚で、券面額の合計は最大15万円になります。

ただし、これは経済効果を示す数字ではありません。 実際に何枚利用されたのか、 商品券をきっかけにどれだけ追加購入が生まれたのかは、確認できていません。

ここからは、飲食店経営への応用として考えてみます。

例えば、こんな買い物が生まれたら

500円の商品券を持ったお客様が、 海の駅で1,500円の商品を購入したとします。

商品券を差し引けば、お客様が追加で支払う金額は1,000円です。

あるいは、商品券をきっかけに食事を楽しみ、 家族へのお土産も購入するかもしれません。

もちろん、商品券がなくても購入していた可能性もあります。

重要なのは、500円という金額そのものではありません。

500円の商品券が、立ち寄る理由や追加の買い物を生み出す可能性があること。

飲食店の販促でも、割引額ばかりに注目しがちですが、 本当に考えるべきなのは、お客様の行動がどう変わるのかという点です。

「良いことをした」という体験を、地域の思い出につなげる

今回の取り組みには、通常の割引券とは違う特徴があります。 それは、商品券を受け取る前に、地域のために行動していることです。

海岸を清掃し、きれいになった海を眺める。 自分もこの地域に少し貢献できたと感じる。 その後、海の駅に立ち寄り、地元の食べ物や商品を楽しむ。

こうした一連の行動は、単に観光地で買い物をするだけの場合とは 異なる体験になる可能性があります。

観光地の魅力は、景色や名物料理だけではありません。 地域の人との交流や、自分自身が何かに参加した経験も、旅の思い出になります。

地域に参加する体験と、地域で消費する体験をつなぐ。

この発想は、観光地の飲食店にとっても参考になるはずです。

飲食店はイベントの「その後」を考えているか

今回の商品券は、利用先が海の駅九十九里に限定されています。 したがって、周辺の飲食店全体に直接送客する仕組みではありません。

しかし、この考え方は、地域の飲食店同士の連携にも応用できます。

例えば、観光地で開催される清掃活動、街歩きイベント、 伝統文化の体験会などに、地域の飲食店が協力する方法です。

参加者に地域共通の特典を用意したり、 イベント終了後に立ち寄れる飲食店を紹介したりする。

あるいは、体験会場で地元の食材を使った料理を紹介し、 その料理を提供する店舗へ案内することも考えられます。

ここで大切なのは、参加者に無理やり買い物をさせることではありません。

体験を終えたお客様が、自然に「もう少しこの地域を楽しみたい」と思える流れを作ること。

そのためには、イベントの開催時間、周辺店舗の営業時間、 移動距離、提供する商品などを考える必要があります。

現場で考えてみたいこと

例えば、イベントが午後3時に終了するのに、 飲食店が午後2時でランチ営業を終えていたら、 せっかくの送客機会を生かせません。

イベントの企画と飲食店の営業が、 別々に考えられていてはもったいないのです。

観光地の繁盛店づくりは、一店舗だけでは完結しない

観光地の飲食店では、個店の集客力を高めることが重要です。

料理の魅力を磨く。Googleマップを整備する。 店頭で商品の魅力を伝える。接客を改善する。 こうした取り組みは欠かせません。

しかし、観光地には個店の努力だけでは解決できない課題もあります。

それが、観光客が地域の中をどのように移動し、 どこで時間とお金を使うのかという問題です。

イベント会場から飲食店へ。 観光施設から土産物店へ。 体験プログラムから地域の食事へ。

それぞれの場所をつなぐ仕組みがあれば、 地域全体で観光客を迎える力が高まります。

今回の九十九里町の取り組みは、 その可能性を考えるきっかけになる事例です。

ただし、実際に商品券がどの程度利用され、 売上につながったのかについては、今後の検証が必要です。

繁盛店づくりのヒント――お客様の「次の行動」を考える

観光地の飲食店経営者に、ぜひ考えてほしいことがあります。

自分のお店の近くで開催されるイベントを、 どれだけ把握しているでしょうか。

そして、そのイベントに参加した人が、 終了後にどこへ向かうのかを考えたことがあるでしょうか。

集客というと、自分のお店にどうやってお客様を呼ぶかを考えがちです。

しかし、観光地では、すでに地域を訪れているお客様も大勢います。 その人たちに、自分のお店へ立ち寄る理由を提供できているでしょうか。

今回の500円商品券から学びたいのは、 割引による集客方法ではありません。

地域で生まれた良い体験を、次の行動につなげるという考え方です。

観光地の繁盛店づくりには、 こうした視点も必要なのではないでしょうか。

参考資料

九十九里町「九十九里オーシャンデイ2026」開催案内 (2026年10月8日) 九十九里町の公式案内を見る

目次