観光地の飲食店では、
「夏休みが一番忙しい」
「8月は人を多めに入れる」
「お盆に向けて仕込みを増やす」
という感覚が、長く続いてきたと思います。
もちろん、今でも8月が重要な地域はたくさんあります。
ただ最近、ホテル市場の分析を見ていて、少し気になる話がありました。
日本の国内旅行需要は、長く8月が大きなピークでした。
一方で、訪日外国人旅行者の需要を見ると、
春の桜。
秋の紅葉。
冬のスキー。
という別のピークがあります。
その結果、インバウンド比率が高まる地域では、
「夏が圧倒的な繁忙期」という従来の形が、少しずつ変わる可能性がある。
と分析されています。
福岡では、ホテルの稼働率や客室単価が年間を通して比較的平準化してきたという指摘もあります。
私はこれを読んで、
観光地の飲食店も、そろそろ「去年までの繁忙期カレンダー」を疑った方がいいのではないか。
そんなことを考えました。
「8月だから売れる」が、ずっと続くとは限らない
観光地の商売には、長年の経験があります。
ゴールデンウィーク。
夏休み。
お盆。
紅葉。
年末年始。
こうした時期に合わせて、人を増やし、仕入れを増やし、販促をかける。
これは間違いではありません。
ただ、旅行者の中身が変われば、需要の山も変わります。
たとえば国内の家族旅行なら、
学校の夏休み。
会社のお盆休み。
大型連休。
に集中しやすい。
でも海外から来る旅行者は、日本の学校休暇に合わせて動くとは限りません。
桜を見るために4月に来る。
紅葉を見るために11月に来る。
雪を見るために1月や2月に来る。
そういう需要が大きくなれば、
年間の売上の山が、一つから複数へ分かれていく。
これは十分あり得る話です。
飲食店は「月別売上」だけでは見えない
ここで大事なのは、
「8月の売上が去年より落ちた」
という結果だけを見ないことです。
なぜ落ちたのか。
国内客が減ったのか。
外国人客が増えたのか。
団体客が減ったのか。
個人旅行が増えたのか。
宿泊客が増えたのか。
日帰り客が減ったのか。
この中身まで見ないと、本当の変化は分かりません。
例えば、
8月は前年比90%。
でも10月は110%。
11月は120%。
2月も伸びている。
となれば、
単純に売上が落ちたのではなく、需要の山が移動している。
可能性があります。
ここを見誤ると、
「8月が弱かったから広告を増やそう」
という対策になってしまいます。
でも本当は、
10月や11月に人員と商品を厚くした方がいい。
かもしれません。
仕入れも、人員配置も、昔のカレンダーのままでいいのか
繁忙期が変われば、
販促。
仕入れ。
人員配置。
営業時間。
季節メニュー。
予約枠。
全部見直す必要が出てきます。
たとえば紅葉シーズンに外国人旅行者が増える地域なら、
11月を「秋の閑散期」と思っていた店が、
実は一番チャンスのある時期になる。
かもしれません。
逆に8月は、
国内客は多いけれど、
暑さで昼間の街歩きが減る。
外国人旅行者の比率も低い。
という地域も出てくるでしょう。
だから、
「毎年この時期はこうだから」
という経験則だけで年間計画を作るのは、少し危なくなってきています。
観光地の販促は「年間一本」ではなくなる
私はこれから、
観光地の販促はもっと細かく分けた方がいいと思っています。
春は桜。
夏は家族旅行。
秋は紅葉と食。
冬は雪・温泉・インバウンド。
というように、
季節ごとに「誰が来るのか」が違う。
なら、
同じ広告。
同じメニュー。
同じSNS投稿。
を一年中続ける必要はありません。
4月は海外客向け。
8月は家族客向け。
11月は紅葉旅行向け。
1月は雪目的の旅行者向け。
と、
季節ごとに、狙う客層と伝える内容を変える。
こちらの方が、今の観光市場には合っているように思います。
福岡のように「一年中それなりに動く」市場も増えるかもしれない
今回の分析で興味深かったのが福岡です。
福岡では近年、年間を通じてホテル稼働率が高い水準で推移しています。
福岡観光コンベンションビューローのデータでも、2026年4月と6月はいずれも客室稼働率83.7%でした。
6月の外国人延べ宿泊者数は前年同月比16.1%増となっています。
もちろん、福岡と地方観光地をそのまま比較することはできません。
でも、
繁忙期と閑散期の差が小さくなる地域が出てくる。
という流れは参考になります。
飲食店にとっては、
「年に数回の繁忙期で稼ぐ」
から、
「年間を通して違う客層を取り込む」
経営へ変わる可能性があります。
「夏が繁忙期」ではなくなる、ではなく
ここは少し慎重に考えたいところです。
私は、
これから夏が暇になる
と言いたいわけではありません。
海辺の観光地。
高原。
夏祭り。
花火。
家族旅行。
など、8月が圧倒的に強い地域はこれからもあります。
大切なのは、
「夏が繁忙期だから」という理由だけで、今年も同じ計画を作らないこと。
です。
前年同月を見る。
その前の年も見る。
客数を見る。
客単価を見る。
国籍を見る。
宿泊客か日帰りかを見る。
予約経路を見る。
地域の宿泊データを見る。
そこまで重ねると、
自店の本当の繁忙期が見えてきます。
一度、「年間売上カレンダー」を作り直してみる
観光地の飲食店なら、一度こんな表を作ってみても面白いと思います。
1月から12月まで並べて、
売上。
客数。
客単価。
国内客。
外国人客。
団体。
個人。
地域イベント。
連休。
桜。
紅葉。
雪。
こうした情報を重ねる。
すると、
「昔から8月が一番忙しいと思っていたけれど、実は最近は11月の方が利益が残っている」
ということもあるかもしれません。
逆に、
「外国人が増えていると思っていたけれど、自店にはほとんど来ていない」
ということもあります。
つまり、
観光市場の変化を、そのまま自店の話にしない。
最後は必ず、自店の数字に戻る。
そこが大切です。
観光地飲食店の経営改善では、地域の観光客や宿泊者数が増えたかどうかだけでなく、自店のどの月・時間帯・商品に変化が出ているのかを確認することが大切です。
観光需要そのものが変わったのか。それとも、お客様の変化にお店が対応できていないのか。
その違いによって、これから取り組むべき改善策も変わります。
お店の数字と観光市場の両方から、これからの経営の方向性を考える。
そのための方法の一つが、観光地飲食店の事業性分析です。
観光客が変われば、繁忙期も変わる
国内旅行中心だった時代には、
日本人の休みに合わせて需要が動きました。
でも、
外国人旅行者が増え、
旅行目的が細分化し、
地方へ行く人も増えれば、
観光地の一年の形も変わります。
春。
夏。
秋。
冬。
それぞれ別の旅行需要が生まれる。
そう考えると、
「いつ売るか」も、もう一度見直す必要がある。
私は今回のホテル市場の記事を見て、
「夏が繁忙期」という常識そのものがなくなるとは思いません。
ただ、
自分の店にとって、本当に今も8月が一番大切な月なのか。
そこは毎年確認した方がいい時代になった。
そんなことを考えました。
参考
トラベルボイス
「世界のホテル業界キーパーソンが見る日本市場、訪日客の構成変化でピークシーズンにも変化」
2026年9月29日公開
国内需要は8月が長くピークだった一方、訪日客需要には春・秋・冬にも山があり、シーズナリティが変化しているとの業界分析を紹介。
福岡観光コンベンションビューロー
2026年4月・6月の宿泊統計等
※本文中の「繁忙期が変わる可能性がある」という部分は、上記の市場動向をもとにした筆者の考察です。すべての観光地で夏の需要が弱まることを示すものではありません。
