観光地の飲食店は、QSCが乱れやすい
観光地の飲食店は、都市型店舗と比べて、来店の波を予測することが難しいという特徴があります。
観光客は、それぞれの観光予定に合わせて行動しています。昼食だからといって、必ずしも12時前後に集中するとは限りません。
さらに、家族旅行やグループ旅行も多いため、4名様、6名様、時にはそれ以上のお客様が、予約なしで突然来店されることもあります。
それまで落ち着いていた店内が、わずか10分、20分で一気に忙しくなる。
観光地では決して珍しいことではありません。
だからこそ、観光地の飲食店は、ちょっとした来店の集中によってQSCが乱れやすいのです。
そして私は、その状態が最も分かりやすく表れる場所の一つが「入口」だと考えています。
私は店に入った瞬間の反応を見ています
飲食店を訪れたとき、私は入口でのスタッフの反応をよく見ています。
大きな声で「いらっしゃいませ」と言えるかどうかだけを見ているわけではありません。
お客様が入ってきたことに、すぐ気づいているか。
目を向けているか。
すぐに案内できない状況でも、「いらっしゃいませ。少々お待ちください」と反応できているか。
つまり、見ているのは、「すぐに案内できるか」ではなく、「すぐに反応できるか」です。
これまで多くの飲食店を見てきましたが、良い店は、この入口への反応が本当に素晴らしいと感じます。
逆に、入店しても誰も反応しない。
スタッフが近くを通っているのに声を掛けない。
厨房からこちらが見えているのに誰も反応しない。
こうした店に出会うと、私はその後のQSCについても少し心配になります。
入口への反応から、店長の教育レベルが見える
入店客への反応は、飲食店にとって基本的な接客の一つです。
それができていないとすれば、スタッフ一人だけの問題とは限りません。
店長が教えていない。
教えていても徹底されていない。
できていない状態を店長が見ても注意しない。
あるいは、店長自身が入口への反応をそれほど重要だと思っていない。
こうした可能性が考えられます。
つまり、入口への反応を見ることで、その店の教育やマネジメントの状態まで見えてくるのです。
店長が日頃から、「お客様が入ってきたら必ず反応しよう」「自分が案内できなくても、まず声を掛けよう」と伝え続けている店なら、スタッフにもその意識が浸透していきます。
入口で起きていることは、実は店長の日頃の教育の結果でもあるのです。
お客様への意識は、その後の接客にも表れる
もう一つ、私が入口への反応を重視する理由があります。
それは、スタッフの意識がお客様に向いているかどうかが分かるからです。
入店してきたお客様に気づけないスタッフが、着席した途端に素晴らしい目配り、気配り、心配りができるようになるとは考えにくいものです。
お茶がなくなっている。
料理を待っている。
追加注文をしたそうにしている。
何かを探している。
寒そうにしている。
小さなお子様が困っている。
良い接客は、こうしたお客様の小さな変化に気づくことから始まります。
入口でお客様に気づくことも、その延長線上にあります。
入口への反応だけが悪いのではなく、入口への反応に、その後の接客が表れている。
私はそう考えています。
「忙しい店」と「混乱している店」は違う
ここでもう一つ、大切なことがあります。
お客様が集中すれば、当然、店内の作業量は増えます。
注文が一気に入れば、料理提供が遅れることもあります。片付けが追いつかなくなることもあります。
しかし、私は「作業量が多くて対応が遅れている状態」と、「店が混乱して遅延している状態」は、まったく違うと考えています。
教育された店は、忙しくなってもフォーメーションが大きく崩れません。
誰がどこを担当するのか。
今、何を最優先するべきなのか。
自分の持ち場を守りながら、どこをフォローするべきなのか。
スタッフ一人ひとりが優先順位を意識しながら動いています。
そのため、料理提供が多少遅れていたとしても、店全体が混乱しているわけではありません。
一方で、フォーメーションができていない店は、お客様が集中した途端に、全員が目の前の作業を追い始めます。
料理を運ぶ。
注文を取る。
片付ける。
会計をする。
それぞれが一生懸命動いているのですが、店全体を見る人がいなくなります。
そして、そのとき最も後回しになりやすい場所の一つが入口です。
誰も入口を見ていない。
お客様が入ってきても気づかない。
気づいていても、「誰かが対応するだろう」と思ってしまう。
これは単純に忙しいのではなく、店が混乱している状態です。
教育された店とは、暇なときにきれいな接客ができる店ではありません。
忙しくなったときにもフォーメーションを守り、優先順位を考えながら、お客様への意識を失わずに動ける店です。
「今日は人手不足だった」は理由にはなっても、QSCは下がっている
もちろん、入口への反応が悪いからといって、必ず店長の教育ができていないとは限りません。
その日たまたまスタッフが休んでいたのかもしれません。
予想以上のお客様が集中したのかもしれません。
突然、大人数のお客様が来店して、一時的に店内が回らなくなっていたのかもしれません。
特に観光地では十分に起こり得ることです。
しかし、お店側にどのような事情があったとしても、お客様から見える店の状態は変わりません。
入口で誰にも反応してもらえない。
料理がなかなか出てこない。
空いた器が下げられない。
追加注文をしたくてもスタッフを呼べない。
店側にはそれぞれ理由があったとしても、その時間帯のQSCが下がっていることには変わりありません。
「今日は人が足りなかったから仕方がない」
店側から見れば、そうなのかもしれません。
しかし、お客様はその日の、その時間の店しか知りません。
だからこそ、入口への反応は、その店がその瞬間に正常な営業状態を保てているかを見る、一つのバロメーターにもなるのです。
忙しいときほど、良い店との差が入口に表れる
暇な時間帯であれば、多くの店が丁寧な接客をすることができます。
本当に差が表れるのは、お客様が集中したときです。
料理を運ばなければならない。
注文を取らなければならない。
テーブルを片付けなければならない。
次々と仕事が増えていく。
そんな状況でも、入口からお客様が入ってきた瞬間に、「いらっしゃいませ」「少々お待ちください」と反応できる。
良い店は、忙しくなってもお客様への意識が途切れません。
もちろん、すぐに席へ案内できないことはあります。料理提供が遅れることもあります。
それでも、フォーメーションを守り、優先順位を考えながら店を動かし、お客様を放置しない。
そこに、教育された店の強さがあります。
入口に立ったお客様に店が反応する。
ほんの数秒の出来事ですが、そこには店長の教育、お客様への意識、スタッフの連携、そしてその瞬間の営業状態まで表れています。
だから私は、飲食店を見るとき、入口での反応を大切にしています。
良い店は、やはり入口への反応が素晴らしい。
入口は、その店のQSCを映す鏡なのかもしれません。
