外国人のお客様が困っている。
スタッフも、そのことには気づいている。
でも、
「英語が話せないから……」
と、声を掛けることをためらってしまう。
観光地の飲食店では、そんな場面が少なくありません。
もちろん、英語を学ぶことも、翻訳ツールを準備することも大切です。
しかし、接客で本当に大切なのは、完璧な外国語を話せることでしょうか。
今回は、言葉が十分に通じなくてもできる「インバウンド接客」について考えてみます。
困っているのは分かる。でも、英語が話せない
外国人観光客Excuse me…
How do I eat this?



えっ……。
How……。
えーっと……。



This one?
Together?



あっ……。
少々お待ちください。



先生。
これ、スタッフの気持ち分かります。
お客様が食べ方を聞いているのは何となく分かる。
でも英語で説明できない。
そうすると、怖くて近づけなくなりますよね。



そうだよね。
でも、ここで一つ考えてみたい。
英語が話せないことと、
「接客できないこと」
って、本当に同じなのかな?
「だって、英語ができないですもん」



でも先生。
だって、私、英語ができないですもん。
何を言われているのか分からないし、こっちも説明できない。
やっぱり難しいですよ。



うん。
じゃあ、英語を勉強して話せるようになったとしよう。
今度、英語を話さない国のお客様が来たらどうする?



えっ……。
また話せないです(笑)。



確かに(笑)。
世界中の言葉を覚えるわけにはいかないですもんね。



そうなんだよ。
英語を勉強することは大切だよ。
観光地なら、簡単な接客英語くらい話せたほうがいい。
英語メニューや翻訳ツールだって準備したほうがいい。



でも、
「英語ができるようになったら、外国人のお客様に接客します」
では、いつまで経っても始まらないと思うんだ。



じゃあ、どうしたらいいんですか?



まずは、
「何とか伝えてみよう」
でいいんじゃないかな。
片言でも、身振り手振りでもいい



「何とか伝える」って、具体的にはどうするんですか?



知っている単語を使う。
料理を指差す。
身振り手振りで伝える。
写真を見せる。
翻訳アプリを使う。
それでも分からなかったら、分かるスタッフを呼んでくる。
方法はいくらでもあると思うよ。



料理の食べ方なら、実際にやって見せることもできますね。



そう。
例えば、
「これを、これにつけて食べる」
くらいなら、
料理を指差して、タレを指差して、
「Together」
でも何となく伝わるかもしれない(笑)。



文法はめちゃくちゃですけど(笑)。



いいじゃない(笑)。
もちろん正しく説明できるなら、そのほうがいい。
でも、正しい英語が出てこないから何もしないより、
身振り手振りでも伝えようとするほうが、お客様にとっては嬉しいんじゃないかな。
大切なのは「伝える力」より「伝えようとする気持ち」



でも先生。
そんな片言とジェスチャーで、
本当に接客と言えるんですか?



もちろん、困っていることをきちんと
解決できるのが一番いいよ。
でも私はね。
外国人のお客様が嬉しいのは、
スタッフが完璧な英語を
話してくれることだけじゃないと思うんだ。



じゃあ、何ですか?



自分が困っていることに気づいてくれた。
そして、
「何とかしてあげよう」
としてくれた。
その気持ちが嬉しいんじゃないかな。



でも、結局うまく伝わらなかったら意味が
ないんじゃないですか?



もちろん、伝わるところまで頑張りたい。
でも、一生懸命身振りで説明してくれた。
翻訳アプリまで使って調べてくれた。
分からないから、分かる人を呼んできてくれた。



そういうことって、ちゃんと伝わると思うんだ。
言葉が完璧に通じなくても、
「自分を大切に扱ってくれた」
という気持ちは残るからね。
世界中の言葉を話せなくても、旅はできる



でも実際に、
ほとんど言葉が通じなかったら困りませんか?



もちろん困ることはあると思う。
でも、世界一周をしたような人に話を聞くと、
「どうにかなるもんですよ」
って言う人がいるんだよね。



確かに。
世界中の言葉を覚えてから旅行しているわけじゃないですもんね。



そう。
英語が通じない地域だってある。
お互いに相手の言葉をまったく話せないことだってある。



それでも、
身振り手振りをする。
地図を見せる。
スマートフォンを使う。
紙に書く。



周りの人に聞く。
人間って、意外と何とかするものなんだと思う。



そう考えると、飲食店でも同じですね。
最初から「言葉が通じない」で諦める必要はない。



そうなんだよ。
まず、
「何とかしてみよう」
と思えるかどうかなんだと思う。
言葉は通じなくても、「してくれたこと」は思い出に残る



でも、最後までちゃんと通じなかったらどうですか?
結局、解決できなかったこともありますよね。



あると思う。



でもね。
海外旅行をした人の話を聞いていると、
言葉は通じなかったけど、
道が分からなくて困っていたら、一緒に地図を見てくれた。
分からないから、わざわざ別の人を呼んできてくれた。
何とか伝えようと、一生懸命身振り手振りで説明してくれた。



そんな話が思い出として残っていたりするんだよ。



何を話してくれたかは覚えていなくても、
どうしてくれたかは覚えている。



そう。
そこだと思う。
言葉は最後までうまく通じなかった。
でも、
「自分のために、あの人が一生懸命やってくれた」
ということは残る。
それも旅の思い出なんだよ。



そう考えると、
「英語ができないから接客できない」
って、ちょっと違って見えてきますね。



でしょう?
言葉が通じなくても、
「あなたのために何とかしたい」
という気持ちは伝えられると思うんだ。
「外国人だから」ではなく、「困っているお客様だから」



先生。
ここまで聞いていると、インバウンドだけの話じゃない気がしてきました。



その通りだよ。
日本人のお客様が料理の食べ方を分からず困っていたら、どうする?



声を掛けます。



でしょう?
外国人のお客様でも同じなんだよ。
外国人だから、
「英語が話せない」
「どう接客すればいいか分からない」
と構えてしまう。
でも本当は、
目の前に困っているお客様がいる。
それだけなんだ。



困っていることに気づいて、何とか解決しようとする。
日本人でも外国人でも同じですね。



そう。
接客の本質は変わらないと思う。
外国語は、そのための道具の一つなんだよ。
外国語は「目的」ではなく、お客様を助けるための「道具」



じゃあ先生。
英語研修とか、英語メニューは必要ないんですか?



いやいや。
それは、あったほうがいいよ(笑)。
そこは勘違いしないでほしい。



ですよね(笑)。



よく使う接客英語を覚える。
英語メニューを用意する。
料理の写真を用意する。
翻訳アプリを使えるようにしておく。
外国人のお客様が増えているなら、当然準備したほうがいい。



でも、それができるまで接客しないわけではない。



そういうこと。
語学やツールは、
お客様の困りごとを解決するための道具。



一番最初に必要なのは、
「このお客様、困っているな」
と気づいて、
「何とかしてあげたい」
と思うことだと思う。
原島純一の視点
外国人のお客様への接客というと、
「英語が話せないから難しい」
という話をよく聞きます。
もちろん、英語を学ぶことは大切です。
簡単な接客英語を覚える。
英語メニューをつくる。
翻訳アプリを使えるようにする。
外国人のお客様が多い観光地なら、できる準備はしておいたほうがいいと思います。
でも私は、それより前に大切なことがあると思っています。
目の前のお客様が困っている。
そのときに、
「英語ができないから」
と離れてしまうのか。
それとも、
「何とかしてあげたい」
と思って近づくのか。
私は、この違いはとても大きいと思います。
相手が英語を話すとは限りません。
世界中からお客様が来る観光地で、すべての言葉を話せるようになることなどできません。
だから最後は、
知っている単語を使う。
指を差す。
身振り手振りで伝える。
写真を見せる。
スマートフォンで調べる。
分かる人を呼んでくる。
そうやって、何とかしようとする。
世界中を旅した人の話を聞くと、言葉がほとんど通じなくても「意外とどうにかなる」と言います。
そして旅の思い出として残っているのは、
正しい文法で何を説明してもらったかではなく、
「困っていたら、一緒に地図を見てくれた」
「分からないのに、一生懸命身振りで説明してくれた」
「わざわざ分かる人を探してきてくれた」
という、人にしてもらったことだったりします。
言葉は通じなかった。
でも、親切にしてもらった。
それも、立派な旅の思い出です。
だから私は、外国人のお客様への接客で一番大切なのは、語学力だけではないと思っています。
大切なのは、「伝えようとする気持ち」。
そして、
「目の前で困っているこの人のために、何とかしてあげたい」という気持ち。
外国人だから特別なのではありません。
日本人のお客様が困っていたら助けようとする。
外国人のお客様が困っていても助けようとする。
接客の本質は同じです。
言葉が通じなくても、
「あなたのために何とかしたい」
という気持ちは伝わります。
外国語や翻訳ツールは、その気持ちを形にするための道具です。
私は、完璧な外国語を話せるスタッフを育てること以上に、
言葉が違っても、目の前のお客様から逃げず、
「何とかしてあげよう」
と動けるスタッフを育てることが、観光地のインバウンド接客では大切だと考えています。
