観光地の飲食店では、お客様からこんな質問をされることがあります。
「この店、初めてなんですけど、何がおすすめですか?」
ところが、この質問に意外と答えられないスタッフがいます。
「全部おすすめです」
「一番人気は、こちらです」
もちろん、間違った答えではありません。
でも、お客様が本当に知りたいのは、それだけなのでしょうか。
今回は、「おすすめを話せるスタッフ」について研究してみましょう。
「全部おすすめです」では、お客様は選べない
ホールスタッフ先生、ちょっと聞いていいですか?
この前、お客様から、
「何がおすすめですか?」
って聞かれたんです。



うん。それで何て答えたの?



「全部おすすめですよ!」
って(笑)。



出た(笑)。



作っている側としては、間違ってないけどね。
全部ちゃんと作ってるから(笑)。



そうなんだよね。
「全部おすすめです」って、店側からすれば本当なんだと思う。
でも、お客様からするとどうかな?



……結局、何を頼めばいいか分からない。



そう。
特に観光客は、その店に初めて来ていることが多い。
だから、
「この店に来たなら、何を食べればいいの?」
を知りたいんだよ。
お客様は「料理名」ではなく「選ぶ理由」を聞いている



じゃあ、
「一番人気はこちらです」
ならいいんですか?



悪くない。
でも、もう一歩いきたいよね。



例えば、高山へ初めて旅行に来た
お客様だったとする。
「何がおすすめですか?」
と聞かれて、
「飛騨牛の陶板焼きです」
だけで終わるのと、
「初めて高山に来られたのでしたら、
飛騨牛の陶板焼きがおすすめですよ」
と言うのでは、少し違うでしょう?



確かに。
自分におすすめしてくれている感じがします。



そうなんだ。
おすすめって、
店が売りたい料理を言うことではない。
目の前のお客様に、
「あなたなら、これを選ぶといいですよ」
と、選ぶ理由を伝えることなんだよ。
同じ料理でも、お客様によっておすすめは変わる



でも、それだとスタッフは難しくないですか?
お客様によっておすすめを変えるんですよね。



最初から完璧にやろうとしたら難しいよ。
でも、例えば3パターンくらいならどう?
初めてこの地域へ来た人。
家族で来た人。
地元の料理を食べたい人。



それならできそうです。



なるほど。
おすすめ商品を覚えるんじゃなくて、
「誰に、何をおすすめするか」
を考えるんですね。



そういうこと。
スタッフが話せないのは、スタッフだけの問題ではない



でも先生、うちのスタッフにそこまで求めるのは難しいですよ。
料理の説明を覚えてもらうだけでも大変ですから。



それは、すごく分かります。
でもね。
スタッフがおすすめを話せないときに、
「もっと商品知識を勉強しなさい」
だけで終わらせないほうがいいと思う。



そもそも店側が、
「何をおすすめしてほしいのか」
を決めていますか?



……そこまで決めてないですね。



「何がおすすめ?」と
スタッフに聞いたら、
経営者と料理長と店長で
答えが違う店もあるよ(笑)。



ありますね(笑)。



それなのに、
「スタッフが商品を説明できない」
と言っても難しいでしょう。
まず店側が整理する必要があるんだよ。
まず3つを決める



難しく考えなくていい。
まず、この3つ。
① 何をおすすめするのか
② なぜ、それをおすすめするのか
③ どんなお客様におすすめするのか
これだけ決めてみる。



例えば?



例えば、
何を?
飛騨牛の陶板焼き。
なぜ?
この地域を代表する食材だから。
誰に?
初めて高山を訪れた観光客。
ここまで決まっていれば、
スタッフも話しやすくなるでしょう?



全然違います。
これなら覚えられそうです。
マニュアルを読ませるだけでは、話せるようにならない



商品説明のマニュアルを作ればいいんですか?



マニュアルはあっていい。
でも、マニュアルを渡しただけでは、
なかなか話せるようにならないよ。
実際に声に出してみることが大事。



ロールプレイですね。



そう。
店長がお客様役になって、
「初めて来たんですけど、何がおすすめですか?」
と聞いてみる。
スタッフが答える。
最初は、
「えーっと……」
ってなる(笑)。



絶対なります(笑)。



でも、それでいいんだよ。
そこで、
「もう少しこう言ったほうが伝わるね」
「それなら分かりやすいね」
と一緒に直していけばいい。
最後は「自分の言葉」で話せるようにする



でも、全員が同じセリフを言うようになるのも、ちょっと違いますよね。



そこが大事。
最初は型があっていい。
でも最終的には、
自分の言葉で話せるようになってほしい。



例えば、
「こちらの商品は当店一番人気の商品でございます」
と暗記した文章を言われるより、
「これ、私も好きなんですよ」
と言われたほうが伝わることもある。



確かに。



もちろん、
本当に好きじゃないのに言ったらダメだけどね(笑)。



そこは演技禁止(笑)。



おすすめって、販売トークじゃないんだよ。
お客様が料理を選ぶお手伝いをすること。
だから、自分の言葉で話せたほうがいい。
おすすめを話せると、接客そのものが変わる



でも先生。
おすすめを話せるようになるだけで、そんなに接客って変わります?



変わると思うよ。
料理について話せるようになると、
お客様との会話が生まれるから。



「どちらから来られたんですか?」
「高山は初めてですか?」
「このあと、どちらへ行かれるんですか?」
そんな会話につながることもある。
そこから、
「それなら、このあと○○へ行くといいですよ」
なんて話になるかもしれない。



ああ。
接客ページで話していた、
「お客様の旅をより良くする」
につながりますね。



そう。
料理のおすすめは、その入口にもなるんだよ。
原島純一の視点
スタッフがお客様から、
「何がおすすめですか?」
と聞かれて答えられなかったとき、
私は、すぐにスタッフを責めないほうがいいと思っています。
まず確認したいのは、
店として「何を、なぜおすすめするのか」をスタッフに伝えているか。
ということです。
おすすめ商品を決める。
おすすめする理由を整理する。
どんなお客様におすすめするのかを考える。
そして、実際に声に出して練習する。
そこまでやって初めて、スタッフは少しずつ話せるようになります。
ただし、最終的な目標はマニュアル通りに話すことではありません。
目の前のお客様を見て、
「このお客様なら、何をおすすめしたら喜んでもらえるだろう」
と考え、自分の言葉で伝えられること。
おすすめとは、店が売りたい料理を押しつけることではありません。
お客様が「これを選んで良かった」と思えるように、料理を選ぶお手伝いをすること。
そして、その会話が、
「この店に来て良かった」
という体験につながる。
私は、そんなスタッフを一人ずつ増やしていくことが、観光地の飲食店にとって大切な接客教育だと考えています。
