なぜ老舗は「変えないこと」がリスクになるのか?
老舗の経営について話していると、
「昔から、このやり方でやってきました。」
という言葉を聞くことがあります。
長く続いてきた店には、守るべきものがあります。
料理。
味。
接客。
店構え。
暖簾。
お客様との関係。
地域とのつながり。
それらを大切にすることは、とても重要です。
でも私は、
「変えないこと」と「守ること」は、同じではない
と思っています。
むしろ、
本当に守りたいものがあるからこそ、変えなければならないことがあります。
100年前と今では、商売を取り巻く環境が違う
当たり前ですが、時代は変わります。
お客様も変わります。
働く人も変わります。
原材料も変わります。
家族構成も変わります。
旅行の仕方も変わります。
お店の探し方も変わります。
予約方法も変わります。
支払い方法も変わります。
100年前から続いている店だからといって、
100年前と同じやり方で商売を続けることはできません。
それでも老舗が長く続いているのは、
何も変えてこなかったからでしょうか。
私は、むしろ逆だと思っています。
長く続いてきた店ほど、時代に合わせて何かを変え続けてきたはずです。
「昔から変えていない」は、本当にそうなのか
例えば、創業100年の料理があるとします。
「創業以来、変わらない味。」
と聞くと、
100年前からまったく同じ材料で、同じ調理方法でつくっているように感じます。
でも、本当にそうでしょうか。
使える食材は変わっています。
仕入先も変わっているかもしれません。
調理器具も変わっています。
冷蔵設備も変わりました。
お客様の味覚も変わっています。
場合によっては、盛り付けや量も変わっているでしょう。
それでも、
お客様から、
「昔から変わらない味だね。」
と言われる。
私は、ここが面白いと思っています。
つまり、
お客様が感じている価値を守るために、見えないところでは変化している。
それが老舗なのではないでしょうか。
変えてはいけないのは「やり方」とは限らない
事業承継でも、
「先代のやり方を守らなければ。」
と考えることがあります。
でも、
先代が本当に守りたかったものは、
その「やり方」だったのでしょうか。
例えば、
毎朝早くから大量の仕込みをする。
昔ながらの手書き伝票を使う。
電話でしか予約を受けない。
何時間もかかる作業を続ける。
それ自体が店の価値なのであれば、残す意味があります。
でも、
単に昔からそうしてきたから続けているのであれば、
変えてもいいかもしれません。
大切なのは、
「何のために、このやり方を続けているのか。」
です。
守るべきなのは「価値」
例えば、
手間をかけた料理だから、お客様が喜んでいる。
だとします。
それなら守るべきなのは、
「手間をかけること」そのものではありません。
お客様が感じている料理の価値
です。
同じ品質を保ちながら、一部の仕込みを効率化できるのであれば、
それは変えてもいいかもしれません。
昔から丁寧な接客を大切にしてきた店なら、
守るべきなのは、
昔とまったく同じ接客方法ではなく、
お客様を大切にする姿勢
かもしれません。
昔から地域の食材を使ってきた店なら、
特定の仕入先を守ることではなく、
地域の食文化を料理として届けること
が本当の価値かもしれません。
つまり、
やり方と価値を分けて考える。
これが大切です。
お客様が変われば、伝え方も変わる
これは、老舗ほど大切なことだと思っています。
どれだけ素晴らしい料理があっても、
知られなければ選ばれません。
昔なら、
口コミ。
地域での評判。
旅館からの紹介。
ガイドブック。
などでお客様が来てくれたかもしれません。
今は、
Google。
SNS。
ホームページ。
口コミサイト。
動画。
さまざまなところでお店を探します。
だから、
昔からの料理を守るために、
伝え方は変える必要があります。
これは、
伝統を壊すことではありません。
むしろ、
伝統を次の時代のお客様へ届けるための変化
です。
外国人観光客が増えても同じ
これは、先ほどのインバウンドの記事ともつながります。
外国人観光客が増えたからといって、
日本らしい料理を外国人向けに変える必要はありません。
老舗の佇まいを外国人向けにつくり変える必要もありません。
でも、
料理が何なのか分からない。
注文方法が分からない。
食べ方が分からない。
店の歴史が分からない。
それなら、
分かるようにする必要があります。
つまり、
日本らしさは残す。
でも、
その価値を届ける方法は変える。
これも、
価値を守るための変化
です。
働き方も「伝統」ではない
老舗の事業承継では、
働き方も大きな課題になります。
昔は、
朝早くから夜遅くまで働く。
休みが少ない。
家族が店を支える。
職人が長時間仕込みをする。
それでも成り立っていた店があります。
でも今は、同じ働き方では人が集まらないことがあります。
後継者も続けられないかもしれません。
それなのに、
「昔からこうだから。」
という理由で働き方まで守ろうとしたら、
店そのものが続かなくなる可能性があります。
店を守るために、働き方を変える。
これも立派な事業承継です。
変えないことが、価値を失わせることもある
ここが一番怖いところです。
「伝統を守っている。」
と思って何も変えない。
でも、お客様は少しずつ変わっている。
地域も変わっている。
観光客も変わっている。
働く人も変わっている。
すると、
店側は何も変えていないのに、
お客様から見た店の価値は変わってしまいます。
昔は便利だった。
でも今は不便。
昔は当たり前だった。
でも今は分かりにくい。
昔は魅力だった。
でも今のお客様には伝わっていない。
だから、
何も変えないことが、結果として店の価値を失わせることもあります。
「守るために変える」という考え方
では、老舗はどう考えればいいのでしょうか。
私は、
「何を変えるか。」から考えない
ことが大切だと思っています。
まず、
「何を守りたいのか。」
を考える。
お客様から愛されてきた味なのか。
店の雰囲気なのか。
地域との関係なのか。
おもてなしなのか。
その土地の食文化なのか。
店の歴史なのか。
それが分かれば、
次に、
「その価値をこれからも届けるためには、何を変えればいいのか。」
を考えることができます。
この順番です。
変えるものと、残すもの
私は、老舗の経営を考えるとき、
大きく二つに分けて考えます。
残すものは、長い年月をかけてお客様から支持されてきた価値。
変えるものは、その価値を今のお客様へ届けるためのやり方。
もちろん、実際にはそんなに簡単に分けられないこともあります。
だからこそ、
一つひとつ、
「なぜ、これは続いてきたのか。」
「お客様は何に価値を感じているのか。」
を考える必要があります。
原島純一の視点
老舗を見ると、
「昔から変わらない店なのかな?」
と思うことがあります。
でも私は、
本当に何も変わっていない店が、何十年、何百年も続くとは思っていません。
お客様から見えないところで、
少しずつ変えてきた。
時代に合わせて変えてきた。
それでも、
お客様が大切にしているものは変えなかった。
だから、
「昔から変わらない。」
と感じてもらえるのではないでしょうか。
私は、
「変えないこと」と「守ること」は、同じではない
と思っています。
本当に守りたい価値があるなら、
その価値を次の時代へ届けるために、
変えなければならないことがあります。
予約方法を変える。
伝え方を変える。
働き方を変える。
オペレーションを変える。
新しいお客様にも分かるようにする。
でも、
お客様が長く愛してきた価値は残す。
だから、
守るべきなのは、昔の「やり方」ではありません。
守るべきなのは、その店がお客様に届けてきた「価値」です。
そして、
その価値を守るために、やり方を変える。
私は、それが老舗を次の時代へつないでいくために必要な考え方だと思っています。
