観光地の飲食店、トイレだけ昔のままになっていませんか?

料理は美味しかった。

接客も良かった。

古い建物にも風情があって、「この店に来て良かった」と思っていた。

ところが、食事の途中でトイレへ行ったら、

「えっ、和式なの?」
「男女は分かれているの?」
「鍵、大丈夫かな……」

それだけで、それまで高まっていた店への印象が下がってしまうことがあります。

特に観光地には、シニア層、女性グループ、家族連れ、外国人観光客など、さまざまなお客様が訪れます。

トイレは売上を直接つくる設備ではありません。

しかし、お客様がその店で過ごす「体験」の一部です。

今回は、観光地の飲食店におけるトイレから、顧客体験と設備投資について考えてみましょう。

目次

料理も雰囲気も良かった。でも、トイレへ行ったら……

日本人観光客

お料理、美味しかったね。
建物も昔ながらで、すごく雰囲気がいいし。

日本人観光客

こういう古いお店、旅行に来た感じがしていいよね。

日本人観光客

ちょっと、お手洗い行ってくるね。

日本人観光客

……えっ。
ここ、男女一緒なのかな?
それに、ウォシュレットもないんだ……。

若手コンサルタント

先生。
せっかく料理も店の雰囲気も気に入っていたのに、
最後にちょっと残念な感じになっちゃいましたね。

飲食店コンサルタント 原島

そうなんだよ。
料理で高めた満足。
接客で高めた満足。
店の雰囲気で高めた満足。
それを、トイレ一つで下げてしまうことがある。
私は、そこをもったいないと思うんだ。

トイレも「お客様の体験」の一部です

経営者

でも先生。
トイレって、そこまで店の評価に影響しますか?
料理を食べに来ているんですよ。

飲食店コンサルタント 原島

じゃあ、お客様が店で体験することを順番に考えてみようか。
店の前に来る。
店に入る。
席に座る。
料理を選ぶ。
料理を食べる。
スタッフと接する。
トイレを使う。
会計をする。
店を出る。
どこからどこまでが、お店の体験だと思う?

経営者

……全部ですね。

飲食店コンサルタント 原島

そうなんだよ。
料理だけが顧客体験じゃない。
お客様が店に入ってから出るまでに触れるもの全部が、その店の印象をつくっている。
トイレも、その一つなんだよ。

若手コンサルタント

料理で100点を目指していても、別のところで大きく点数を落としているかもしれない。

飲食店コンサルタント 原島

そう。
だから私は、
「料理とは関係ないから」
で切り離して考えないほうがいいと思っているんだ。

トイレの状態は、本当に店の印象に影響するのか?

若手コンサルタント

でも先生。
これは感覚の話だけじゃないんですか?
本当にトイレで店の印象って変わるんでしょうか?

飲食店コンサルタント 原島

実際に、トイレについてはいろいろな消費者調査があるんだよ。
例えば飲食店のトイレが汚い場合に、
「店のイメージが悪くなる」
「次から利用したくない」
と答える人が多いという調査もある。

経営者

そんなに影響するんですか?

飲食店コンサルタント 原島

そう。
別の調査でも、きれいなトイレは店のイメージアップや再来店意向につながるという結果が出ている。
だから、
「トイレなんて売上と関係ない」
とは言い切れないと思うんだ。

ホールスタッフ

トイレが良かったから料理が売れるわけではないけど、
トイレが悪いことで、せっかくの店の評価を落とすことはある。

「私はウォシュレットを使わないので」は、お客様の理由ではない

経営者

でも先生。
私はウォシュレット派じゃないので、なくても全然困らないんですよ。
このトイレも普通に使っていますし。

飲食店コンサルタント 原島

社長が使うかどうかを聞いているんじゃないんです(笑)。

若手コンサルタント

(笑)。

飲食店コンサルタント 原島

考えたいのは、
「社長が困るかどうか」
ではなく、
「この店に来るお客様がどう感じるか」
でしょう?

経営者

まあ、それはそうですけど……。

飲食店コンサルタント 原島

経営者自身が必要としていない設備って、どうしても後回しになりやすいんだよ。
でも、
「自分は困らない」は、お客様が困らない理由にはならない。
そこは分けて考えないといけないと思う。

「苦情を言われたことがない」は、本当に問題がないのでしょうか?

経営者

でも、今までお客様から、
「トイレを直してください」
なんて言われたことはないですよ。

飲食店コンサルタント 原島

じゃあ聞くけど。
トイレが古かったから、
「もうこの店には来ません」
って、わざわざ社長に報告して帰るお客様っているかな?

経営者

……いないでしょうね。

飲食店コンサルタント 原島

そうなんだよ。
お客様って、不満を全部店に伝えてくれるわけじゃない。
何も言わずに、
「ちょっと嫌だったな」
と思って帰ることもある。

ホールスタッフ

そして店側は、
「何も言われていないから問題ない」
と思ってしまう。

飲食店コンサルタント 原島

そう。
不満がないのではなく、不満を言われていないだけかもしれない。
設備を見るときには、その可能性も考えてほしいんだ。

観光地には、自分とは違うお客様がたくさん来る

若手コンサルタント

観光地だと、トイレの問題は普通の飲食店より大きくなるんですか?

飲食店コンサルタント 原島

私は、考える必要があると思う。
観光地には、本当にいろいろなお客様が来るからね。

ホールスタッフ

若い人だけじゃないですもんね。

飲食店コンサルタント 原島

そう。
夫婦で旅行するシニア層。
女性グループ。
小さな子どもを連れた家族。
外国人観光客。
身体に不自由がある人。
経営者本人とは、年齢も性別も生活習慣も違う人たちが来る。

若手コンサルタント

特にシニアの女性客は、観光地では大切なお客様ですね。

飲食店コンサルタント 原島

そうだよね。
年齢を重ねれば、
洋式であること。
立ち座りしやすいこと。
手すりがあること。
段差が少ないこと。
そういう「使いやすさ」や「安心」の重要性も高くなる。
自分を基準に設備を考えてはいけないんだよ。

お客様の「普通」の基準は、すでに変わっています

経営者

でも、昔から観光地の古い店って、こんな感じじゃないですか?
多少古いのは仕方ないと思うんですけど。

飲食店コンサルタント 原島

昔なら、それで納得してもらえたこともあると思う。
でも、お客様が普段使っているトイレを考えてみて。

若手コンサルタント

駅も商業施設も、かなりきれいになっていますね。

飲食店コンサルタント 原島

そう。
観光地へ向かう駅や新幹線の駅でも、洋式化や温水洗浄便座、バリアフリー化が進んでいる。
ホテルや商業施設も同じ。
つまり、
お客様にとっての「普通」の基準そのものが上がっている
んだよ。

ホールスタッフ

そこから飲食店に来て、急に和式だったら、余計に古く感じるかもしれない。

飲食店コンサルタント 原島

そういうこと。
「昔からこれだから」
ではなく、
今のお客様がどう感じるかで考えたいよね。

トイレにある「4つの不」を見つける

若手コンサルタント

先生。
じゃあトイレを見るとき、具体的には何をチェックしたらいいんですか?

飲食店コンサルタント 原島

私は、お客様の「不」を探すと分かりやすいと思う。
例えば、
不便・不満・不親切・不安。
この4つ。

ホールスタッフ

トイレなら、どんなものがありますか?

飲食店コンサルタント 原島

例えば「不便」なら、
和式で使いづらい。
段差がある。
手すりがない。
荷物を置く場所がない。
「不満」なら、
汚れている。
臭い。
設備が古い。
温水洗浄便座がない。

若手コンサルタント

「不親切」は?

飲食店コンサルタント 原島

男女の表示が分かりにくい。
トイレの場所が分からない。
設備の使い方が分かりにくい。
そして「不安」は、
男女共用。
鍵やプライバシーが心配。
暗い。
高齢者なら転倒や立ち座りが心配。
そういうことだよね。

ホールスタッフ

不安をなくすことは、「安心して使える」に変わるんですね。

飲食店コンサルタント 原島

そう。
お客様の「不」を一つずつ取り除く。
それも店づくりなんだよ。

観光客だから、一度きりとは限らない

経営者

でも先生。
観光地のお客様って、地元のお客様みたいに毎月来るわけではないですよね。
そこまでトイレに投資する必要がありますか?

飲食店コンサルタント 原島

私は、
「観光客だから一度しか来ない」
とは考えないほうがいいと思う。

若手コンサルタント

同じ観光地へ何度も旅行する人もいますもんね。

飲食店コンサルタント 原島

そう。
気に入った温泉地へ毎年来る人もいる。
季節を変えて訪れる人もいる。
そして、
「前に行ったあのお店、良かったからまた行こう」
となることだってある。

ホールスタッフ

再来店だけじゃなくて、
「あのお店良かったよ」
って家族や友達に紹介することもあります。

飲食店コンサルタント 原島

そうなんだよ。
だから観光地でも、次につながる体験をつくることは大切。
そして、
「安心して利用できる店」
であることも、次に選ばれる理由の一つだと思うんだ。

売上にならないところにも、お金を掛ける

経営者

でもトイレを改修しても、売上が増えるわけではないですよね。
それなら厨房設備や客席にお金を掛けたほうがいい気もします。

飲食店コンサルタント 原島

もちろん、売上をつくるための投資は大切だよ。
でも、
売上にならない部分には、お金を掛けなくていい
ということではないと思う。

経営者

例えば?

飲食店コンサルタント 原島

温水洗浄便座を付けても、
「トイレ売上」が増えるわけじゃない(笑)。
手すりを付けても、
客単価が500円上がるわけでもない。
でも、それによって安心して利用できるお客様が増えるなら、意味のある投資でしょう?

若手コンサルタント

売上を直接つくるための投資だけが、設備投資ではない。

飲食店コンサルタント 原島

そう。
お客様の「不」を取り除くための投資も必要なんだ。
それが顧客体験を守ることにつながるからね。

古いものを残すことと、不便を残すことは違う

シェフ

でも先生。
古い店には、古い店の良さもありますよね。

飲食店コンサルタント 原島

もちろん。
私は、古いものを全部新しくしろと言っているわけじゃないよ。

シェフ

古い梁とか、柱とか。
昔からの建具とか。

飲食店コンサルタント 原島

そう。
暖簾。
庭。
建物の佇まい。
長く使われてきた家具。
そういうものは、その店にしかない価値になることがある。
むしろ大切に残したほうがいい。

若手コンサルタント

じゃあ、何を変えるんですか?

飲食店コンサルタント 原島

お客様にとっての「不」になっているもの。
和式トイレ。
使いづらい設備。
分かりにくい男女共用。
不安になる鍵。
そういうものまで、
「昔からあるから」
という理由で残す必要はないと思う。

ホールスタッフ

残すべき古さと、改善すべき不便は違う。

飲食店コンサルタント 原島

そう。
老舗だからこそ、そこを見極めてほしいんだ。

料理で高めた体験価値を、最後まで下げない

若手コンサルタント

先生。
今回って、結局トイレを新しくしましょうという話ではないんですね。

飲食店コンサルタント 原島

そう。
トイレは、すごく分かりやすい例なんだ。
私が考えてほしいのは、
お客様の体験を、店全体で見ていますか?
ということ。

ホールスタッフ

料理だけじゃない。
接客も、店内も、トイレも、全部含めてお客様は一つのお店として体験している。

飲食店コンサルタント 原島

そういうこと。
料理で、
「美味しい!」
と思ってもらう。
接客で、
「親切なお店だな」
と思ってもらう。
昔ながらの建物を見て、
「素敵なお店だな」
と思ってもらう。
そこまで一つずつ体験価値を積み上げてきたのに、
トイレへ行った瞬間、
「えっ……」
となってしまったら、もったいないでしょう?

経営者

確かに。
トイレだけ別の店というわけじゃないですからね。

飲食店コンサルタント 原島

そうなんだよ。
だから、
「トイレで売上が上がるか?」
だけで考えない。
お客様が店に入ってから帰るまで、
どこかに大きな「不」が残っていないかを見る。
そして、せっかく高めた顧客体験を最後まで下げない。
私は、そういう店づくりが大切だと思う。

原島純一の視点

観光地の飲食店を見ていると、料理や客席にはお金を掛けていても、トイレだけ昔のままというお店があります。

経営者に理由を聞くと、

「自分はウォシュレットを使わないから」

「昔からこれで問題なかったから」

「お客様から苦情を言われたことがないから」

という話を聞くことがあります。

でも私は、

「自分は困らない」は、お客様が困らない理由にはならない

と思っています。

観光地には、さまざまなお客様が訪れます。

若い人だけではありません。

夫婦で旅行するシニア層。

女性グループ。

小さなお子さんを連れた家族。

外国人観光客。

身体に不自由のある方。

特に年齢を重ねれば、洋式であること、手すりがあること、段差が少ないことなど、「安心して使える」ことの重要性は高くなります。

そして今では、駅や商業施設、ホテルなどのトイレもどんどん快適になっています。

お客様にとっての「普通」の基準そのものが変わっているのです。

だから私は、店を見るときに、

不便はないか。

不満はないか。

不親切はないか。

不安はないか。

この「4つの不」を取り除くことも大切だと考えています。

もちろん、すべてを一度に改装できるわけではありません。

しかし、

「売上にならないから、お金を掛けない」

という考え方にはしたくありません。

ウォシュレットを付けても、「トイレ売上」が増えるわけではありません。

手すりを付けても、客単価が直接上がるわけではありません。

それでも、お客様が安心して利用できるようになるのであれば、私は意味のある投資だと思います。

なぜなら、お客様の体験価値は料理だけで決まるものではないからです。

店に入り、

料理を選び、

食事を楽しみ、

スタッフと接し、

トイレを使い、

会計をして、

店を出る。

そのすべてが、一つの店での体験です。

料理でどれだけ体験価値を高めても、トイレで大きく下げてしまったら、あまりにももったいない。

そして、

「観光客だから一度しか来ない」

とも考えないでほしいと思っています。

気に入った観光地を何度も訪れる人はたくさんいます。

「あのお店、良かったからまた行こう」

という再来店もあります。

「あのお店、良かったよ」

と家族や友人に紹介してくれることもあります。

そのとき、

「料理は美味しかったけれど、トイレだけが不安だった」

という店より、

「安心して利用できる店」

のほうが、もう一度選びやすいのではないでしょうか。

老舗や古い飲食店には、残すべきものがたくさんあります。

古い梁。

柱。

建具。

庭。

暖簾。

長い年月を重ねた建物の佇まい。

それらは、新しい店がお金を掛けても簡単にはつくれない価値です。

だから、大切に残してほしい。

でも、

和式トイレ。

使いづらい設備。

分かりにくい男女共用。

不安になる鍵。

こうしたものまで、「昔からある」という理由で残す必要はありません。

古いものを残すことと、不便を残すことは違います。

売上をつくるものに投資することも大切です。

同時に、お客様の「不」を取り除き、せっかく高めた体験価値を下げないために投資することも大切です。

私は、店に入ってから帰るまで、お客様が安心して気持ちよく過ごせる状態をつくることも、店づくりの大切な役割だと考えています。

目次