観光地の飲食店を支援していると、予約について少し特徴的な動きが見えることがあります。
それは、予約してから実際に来店するまでの時間が短いということです。
例えば、前日の夜に翌日のランチを予約する。
あるいは、当日の夕方になってから、その日のディナーを予約する。
お店からすると、
「もう少し早く予約してくれれば、準備しやすいのに」
と思うかもしれません。
しかし、旅行者の立場になって考えてみると、この行動は決して不自然ではありません。
むしろ、スマートフォンが当たり前になった今、
「現地に行ってから調べれば、何とかなる」
という旅行の仕方が増えています。
今回は、観光地の飲食店における「予約のリードタイム」について考えてみます。
3日前、旅行者はまだ仕事をしている
飲食店側からすれば、予約は早く入った方が助かります。
仕入れが決められる。
仕込み量が決められる。
スタッフの配置も決めやすい。
席割りも事前に組むことができます。
そのため、
「予約は3日前まで」
「前日の夕方まで」
など、早めに予約受付を終了しているお店もあります。
しかし、お客様の立場から考えてみましょう。
3日後に旅行へ行くことは決まっている。
ホテルも取ってある。
それでも3日前なら、まだ普通に仕事をしている人も多いでしょう。
仕事をしながら、
「旅行2日目の昼は何時ごろ、どの場所にいて、どのお店で何を食べようか」
まで考えているでしょうか。
まして、初めて訪れる土地です。
土地勘もありません。
どの観光地に何時間いるかも分からない。
何時にお腹が空くかも分からない。
行ったこともない土地の、行ったこともない飲食店を、何日も前から決める。
お店が考えているほど、お客様にとって簡単なことではないのです。
前日の夜になって、ようやく明日のランチを考える
観光地の飲食店では、夜遅い時間になってからグルメサイトへのアクセスが大きく伸びるケースがあります。
その中には、翌日のランチを探している旅行者もいます。
一日の観光が終わった。
夕食も終わった。
ホテルや旅館に戻った。
そこでスマートフォンを見ながら、
「明日はどこへ行こうか」
「午前中はここに行こう」
「じゃあ、お昼はこの辺かな」
「この店、良さそうじゃない?」
と、翌日の予定を決めていく。
その流れの中で、翌日のランチも決まります。
つまり、お店から見れば、
「こんな時間になって、明日の予約?」
でも、お客様からすれば、
「今、明日の予定が決まったから、今予約している」
だけなのです。
予約が遅いのではありません。
お客様にとって、その時間が「予約するタイミング」なのかもしれません。
スマホが「予約から来店までの時間」を短くした
以前の旅行では、今よりも事前に情報を調べておく必要がありました。
ガイドブックを読む。
観光案内所で聞く。
ホテルや旅館でおすすめの店を教えてもらう。
電話番号を調べて電話する。
しかし今は、スマートフォン一台でほとんど完結します。
現在地から飲食店を探す。
料理写真を見る。
口コミを見る。
営業時間を確認する。
空席を確認する。
そして、そのまま予約する。
だから、
「行ってから調べればいい」
ができるようになりました。
旅行者が怠けているわけでも、計画性がなくなったわけでもありません。
テクノロジーによって、事前に決めなくても困らなくなったのです。
当然、予約してから来店するまでの時間も短くなります。
お店にとって「寝ている間の予約」は怖い
ここまで旅行者側から考えてきましたが、お店側にも事情があります。
例えば、夜の営業を終えた時点で、翌日のランチ予約が10名だったとします。
「明日はこのくらいだな」
と考えて、
仕込み量を決める。
食材を確認する。
スタッフの配置を考える。
席の使い方をイメージする。
そして店を閉めます。
ところが翌朝、予約台帳を確認すると、
10名だった予約が18名になっている。
お店にとって、これは結構怖いことです。
「仕込みは足りるのか?」
「スタッフは足りるのか?」
「この予約時間で席は回るのか?」
「この人数を入れて、フリーのお客様にも対応できるのか?」
昔の電話予約であれば、店に誰もいなければ予約は入りませんでした。
ところがネット予約では違います。
店の電気が消えていても、予約は入ります。
経営者が寝ている間にも、翌日の席が売れていく。
便利になった反面、飲食店にとっては新しい怖さが生まれたとも言えます。
怖いから予約を閉じればいいのか?
では、寝ている間に予約が入るのが怖いから、前日の夕方でネット予約を終了すればいいのでしょうか。
もちろん、それも一つの判断です。
しかし、ここで考えたいことがあります。
お店が予約を締めたい時間に、お客様は店を探し始めているかもしれない。
ということです。
前日の夜に、
「明日のランチはどこにしよう?」
と検索している旅行者がいる。
良さそうなお店を見つけた。
予約しようと思った。
ところが、
「予約受付終了」
となっている。
実際には翌日の席が空いていたとしても、お客様からすれば、その席は予約できません。
そして、予約できる別のお店を探します。
翌日になって店側が、
「今日は予約が少ないな」
と思ったとしても、
本当に需要がなかったのでしょうか。
もしかすると、
お客様が予約したい時間より先に、お店が販売を終了していただけかもしれません。
「予約を取るか」ではなく「どう取るか」を考える
だからといって、すべての席を24時間、無条件に予約できるようにすればいいわけではありません。
それでは営業が崩れるお店もあります。
大切なのは、
「予約を取るか、取らないか」ではなく、「どう取れば営業を崩さずに予約を受けられるか」を考えることです。
例えば、
席を指定できないようにする。
ネット予約に開放する席数を限定する。
一組あたりの予約人数を限定する。
ランチなら営業開始直後の時間だけ予約を受ける。
ディナーも予約可能時間を限定する。
業態によっては、時間を完全に約束する予約ではなく、回転寿司店のような「優先案内」の仕組みにする。
方法はいろいろあります。
重要なのは、
「怖いから予約を閉める」ことで問題を解決しないことです。
どうすれば、寝ている間に予約が入っても怖くないのか。
その仕組みを考えることが必要です。
お客様の行動が変われば、お店の仕組みも変える
今回の話は、単なるネット予約の設定方法の話ではありません。
もっと大きな変化が背景にあります。
スマートフォンが普及したことで、お客様の行動が変わりました。
旅行先で店を探す。
前日の夜に翌日の予定を決める。
当日になって店を探す。
その場で口コミを確認する。
そして、その場で予約する。
お客様にとっては、それが便利だからそうしているだけです。
店側が、
「もっと早く予約してくれればいいのに」
と思っても、お客様の行動を変えることは簡単ではありません。
だったら、お店側が考えなければなりません。
変わったお客様の行動に、自分たちの仕組みをどう合わせるのか。
予約時間を限定する。
予約席数を限定する。
予約人数を限定する。
優先案内にする。
そうやって、自店の営業を守りながら、お客様の新しい行動にも対応していく。
これから差がつくのは、こうした部分なのではないでしょうか。
原島 純一の視点
観光地の飲食店では、旅行者の予約から来店までの時間が短いケースをよく見ます。
特にスマートフォンが普及してから、「現地で調べれば何とかなる」という行動は、以前より取りやすくなりました。
店側からすると、早く予約が分かった方が圧倒的に楽です。
仕込みも、人員配置も、席割りも事前に決められるからです。
だから、寝ている間に翌日のランチ予約が増えていくことを怖いと感じる気持ちもよく分かります。
しかし、お客様からすれば、前日の夜になってようやく翌日の予定が決まり、そこで初めてランチを探しているのかもしれません。
予約が遅いのではなく、その時間がお客様にとっての「予約するタイミング」なのです。
だから私は、「もっと早く予約してください」とお客様に求めるだけではなく、短い予約リードタイムでも対応できる仕組みを店側が考える必要があると思っています。
怖いから予約を閉めるのではなく、どうすれば安心して予約を受けられるのかを考える。
お客様の行動が変わったのであれば、お店の仕組みも変えていく。
私は、そうした変化に対応し続けられることが、これからの飲食店経営ではますます重要になると考えています。
