なぜ老舗は「自分たちの価値」に気づきにくいのか?

なぜ老舗は「自分たちの価値」に気づきにくいのか?

老舗のお店へ伺って話を聞いていると、

「これは昔からやっていますから。」

「特別なことではないですよ。」

「どこの店でもやっているんじゃないですか。」

と言われることがあります。

でも、お客様から見ると、

そこに魅力を感じていることがあります。

なぜ、店側とお客様で見え方が違うのでしょうか。

私は、

長く続けてきたことほど、店側にとって「当たり前」になってしまうから

だと思っています。

そして老舗の事業承継では、この「当たり前」の中にある価値を見つけることが、とても大切です。

目次

毎日やっていることは、特別に見えなくなる

例えば、

毎朝、暖簾を掛ける。

季節に合わせて花を変える。

料理に季節のあしらいを添える。

昔から同じ器を使う。

女将がお客様を見送る。

お客様へお礼状を書く。

地域の生産者から食材を仕入れる。

何十年も続けている店にとっては、

どれも、

「いつものこと」

かもしれません。

わざわざ、

「これは、うちの強みです。」

とは考えません。

でも初めて来たお客様には違って見えることがあります。

「きれいな暖簾だな。」

「季節を感じる料理だな。」

「こういう器で食べるのもいいな。」

「丁寧に見送ってくれたな。」

そう感じる。

つまり、

店側にとっての日常が、お客様にとっては価値になることがあります。

「当たり前」になった瞬間、価値は見えにくくなる

人は、毎日見ているものに慣れます。

毎日見ている建物。

毎日使っている器。

毎日つくっている料理。

毎日やっている接客。

長く続ければ続けるほど、

「普通のこと。」

になっていきます。

だから老舗ほど、

自分たちが持っているものを、

「古い。」

「普通。」

「大したことではない。」

と考えてしまうことがあります。

でも、それは、

価値がないのではありません。

価値が日常になってしまっただけ

かもしれません。

お客様は「一つのこと」だけで店を好きになるとは限らない

ここも重要だと思っています。

お客様が、

「私は、この花があるからこの店へ来ています。」

と言うことは、ほとんどないでしょう。

「この器が好きだから通っています。」

とも言わないかもしれません。

でも、

花がある。

料理に季節感がある。

いつもの器で出てくる。

顔を覚えてくれている。

帰りに声を掛けてくれる。

そうした小さなものが積み重なって、

「この店はいいな。」

という気持ちになります。

つまり、

一つひとつは来店理由にならなくても、

全部合わせて「この店らしさ」になっている

ことがあります。

だから、なくしてもすぐには分からない

ここが、事業承継で怖いところです。

例えば後継者が、

「この花、毎回変える必要あるのかな。」

とやめる。

「このあしらい、手間がかかるからやめよう。」

と変える。

「お礼状なんて今の時代いらないよ。」

とやめる。

一つ変えたくらいでは、売上は落ちないかもしれません。

お客様から苦情も来ないでしょう。

だから、

「やっぱり必要なかったんだ。」

と思う。

でも、

また一つなくなる。

また一つ変わる。

少しずつ、

お客様が感じていた「この店らしさ」が薄くなっていく。

そして、ある日、

「なんとなく、昔と変わったね。」

となる。

これは数字だけを見ていても、なかなか分かりません。

価値がないから捨てるのではない

だから私は、老舗の事業承継で一番怖いのは、

価値のあるものを意図的に壊すことではないと思っています。

そんなことをする後継者は、ほとんどいないでしょう。

もっと怖いのは、

価値だと気づかずに捨ててしまうことです。

後継者から見れば、

古い器。

昔からのやり方。

面倒な習慣。

効率の悪い仕事。

そう見えるものの中に、

お客様が長年感じてきた価値があるかもしれない。

だから、

「古いから。」

「面倒だから。」

「今風ではないから。」

だけで判断しない。

その前に、

「なぜ、これは今まで続いてきたのだろう。」

と考えてみることが大切です。

では、自分たちの価値をどうやって見つけるのか

ここで難しいのが、

「では、自分たちの価値って何だろう。」

ということです。

会議室で、

「うちの強みは何だろう。」

と考えることも必要です。

でも私は、それだけでは分からないことが多いと思っています。

なぜなら、

自分たちにはすでに「当たり前」になっているからです。

だから、

お客様を見る。

これが一番大切です。

お客様は、何を見ているのか

例えば、

お客様は店のどこで写真を撮っていますか。

毎回来る常連客は、何を注文していますか。

お客様は、何を見て、

「懐かしいね。」

と言いますか。

友人を連れてきた常連客は、何を説明していますか。

口コミには、何が書かれていますか。

「ここへ来ると落ち着く。」

と言うお客様は、何に安心しているのでしょうか。

お客様が帰るとき、何を褒めてくれますか。

そこに、

店側では気づいていない価値

が隠れていることがあります。

お客様が人に話すことは、大きなヒントになる

私は特に、

お客様が、その店を誰かにどう説明しているか

を見ると面白いと思っています。

「あそこは○○が美味しいよ。」

「あの建物、すごく雰囲気がいいよ。」

「女将さんがすごく丁寧なんだよ。」

「昔から変わらないんだよ。」

「地元の魚を食べるなら、あそこだよ。」

お客様が人に伝えている言葉には、

その店を選ぶ理由

が表れています。

経営者が考えたキャッチコピーより、

お客様が自然に話している言葉のほうが、

店の価値を正確に表していることさえあります。

「先代に聞く」だけでも分からない

事業承継のとき、

「何を残したらいいですか。」

と先代に聞くことがあります。

もちろん、先代の話はとても大切です。

でも、

先代自身も、その価値を「当たり前」だと思っていることがあります。

「そんなの昔からやっているだけだよ。」

と言うかもしれません。

だから、

先代に聞く。

従業員に聞く。

そして、

お客様を見る。

いろいろな角度から、

「なぜ、この店は長く選ばれてきたのか。」

を探していく。

そうすることで、

初めて見えてくるものがあります。

新しいものをつくる前に、すでにあるものを見る

後継者は、

新商品をつくる。

新しい客層を開拓する。

店を改装する。

SNSを始める。

新しいことに取り組みます。

それは必要です。

でも、その前に一度、

「自分たちの店には、すでに何があるのか。」

を見てほしいと思っています。

何十年も続いてきた店には、

ゼロから始める店にはないものがあります。

お客様との関係。

地域との関係。

料理。

歴史。

建物。

接客。

習慣。

思い出。

それらは、

お金を出せばすぐにつくれるものではありません。

「古いもの」を「価値」として見直す

以前の記事で、

老舗は変わる必要があるという話をしました。

私は、

何でも残せばいいとは思っていません。

時代に合わなくなったものは変える。

意味のなくなったものはやめる。

働き方も改善する。

でも、

何かを変える前に、

それが本当に「古いだけのもの」なのか。

それとも、

長い年月をかけてつくられた価値なのか。

を考える。

この一手間が、事業承継ではとても重要だと思っています。

原島純一の視点

私は、老舗のお店へ行くと、

経営者が何でもないと思っているところに魅力を感じることがあります。

「この暖簾、いいですね。」

と言うと、

「昔から使っていますから。」

と言われる。

「この器、いいですね。」

と言うと、

「ずっとこれですよ。」

と言われる。

「このお客様への対応、いいですね。」

と言うと、

「普通ですよ。」

と言われる。

でも、

その「普通」が、その店をつくっている

のだと思います。

長く続けてきたからこそ、

自分たちには見えなくなっている。

だから私は、

老舗の価値を探すとき、

新しいものばかりを探しません。

まず、

今あるものを見る。

そして、

お客様を見る。

お客様は何を喜んでいるのか。

何を写真に撮るのか。

何を人に話すのか。

何が変わると寂しいと感じるのか。

そこに、

その店が長い年月をかけてつくってきた価値があります。

事業承継で怖いのは、

価値がないものを捨てることではありません。

価値だと気づかずに、捨ててしまうことです。

老舗の価値は、

新しくつくるものだけではありません。

すでにある価値に、もう一度気づくことから始まります。

そして、その答えは、

やはり、

現場と、お客様の中にある。

私は、そう考えています。

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