観光地の駅に降りると、さまざまな飲食店の看板を目にします。
地元の名物料理。
有名な老舗。
人気の飲食店。
その土地を代表するような店が、改札を出たところや駅構内、駅前に大きな看板を出しています。
しかし、その看板を見た人が、そのまま店へ向かうとは限りません。
むしろ、
「こんなお店があるんだ」
と思うだけで、その場では通り過ぎてしまう人のほうが多いかもしれません。
それなら、駅に看板を出す意味はあるのでしょうか。
私は、駅看板の役割を考えるとき、
「その看板だけで来店してもらえるか」
だけで判断してはいけないと思っています。
なぜなら、駅看板はお客様との「最初の接触」になるからです。
一度見た店は、もう「知らない店」ではない
例えば、旅行で仙台駅に到着したとします。
駅構内や駅前で、牛タン店の大きな看板を見る。
「仙台に来たんだから、牛タンもいいな」
そう思ったとしても、その場ですぐに店へ向かうとは限りません。
いったんホテルへ荷物を置いたり、観光へ出かけたりする。
そしてお昼になって、
「そろそろ何か食べようか」
となる。
スマートフォンを取り出して、Googleで「仙台 牛タン」と検索します。
たくさんの牛タン店が表示されます。
その中に、先ほど駅で見た店が出てくる。
すると、
「あ、この店、さっき駅で見たよね」
となります。
この瞬間、その店は他の店とは少し違う存在になっています。
初めて見る店ではありません。
一度見たことのある店です。
駅看板とGoogleは、別々に働いているわけではない
Googleでその店を開いてみる。
口コミがたくさんある。
評価も悪くない。
おいしそうな牛タンの写真が並んでいる。
すると、
「やっぱり人気のお店なんだ」
「駅にも大きな看板があったし、有名なお店なのかもしれない」
「ここなら間違いなさそうだね」
と感じることがあります。
つまり、駅看板とGoogleは別々の集客手段として働いているだけではありません。
駅で見た情報を、Googleの情報が後から補強しているのです。
反対に言えば、Googleで初めて見つけた知らない店よりも、
「さっき見た店」
のほうが安心して選びやすくなることがあります。
観光客にとって、この安心感はとても重要です。
観光客は「知らない店」ばかりの中から選んでいる
地元で食事をするときとは違い、観光地では知らない店ばかりです。
どこがおいしいのか。
どこが有名なのか。
どこなら失敗しないのか。
土地勘もありません。
しかも旅行中の食事は、何度もやり直せるものではありません。
せっかく旅行に来たのだから、
「できれば失敗したくない」
という気持ちがあります。
そんな状況で、Googleに表示された10軒のうち9軒は初めて見る店。
しかし1軒だけ、
「あ、この店知っている」
となったらどうでしょう。
実際には店のことを詳しく知っているわけではありません。
駅で看板を見ただけです。
それでも、
「まったく知らない店」から「見たことのある店」へ変わっている。
この違いは小さくありません。
一度目の接触で認知し、二度目の接触で確信する
広告やマーケティングでは、同じ対象に繰り返し接触することで、親近感や好意が生まれやすくなる「単純接触効果」という考え方があります。
また、同じ店の情報でも、異なる場所や媒体で接触することで、情報が補強されることがあります。
観光地の飲食店で考えるなら、
駅の看板。
Googleマップ。
公式ホームページ。
Instagram。
観光パンフレット。
ホテルで見た案内。
さまざまな場所で同じ店に触れる可能性があります。
大切なのは、
「看板を見たから来店した」
「Googleを見たから来店した」
と、一つの媒体だけで考えないことです。
一度目の情報で「知っている店」になり、二度目の情報で「間違いなさそうな店」に変わる。
そう考えると、駅看板の役割も違って見えてきます。
駅看板だけで売ろうとしなくてもいい
そう考えると、駅看板に何もかも書く必要はありません。
宴会できます。
個室あります。
ランチあります。
創業○年。
地元食材を使っています。
営業時間は○時から○時。
全部を伝えようとすると、かえって何も頭に残らなくなります。
駅で歩いている観光客が、看板を何十秒も読んでくれるとは限りません。
まず必要なのは、
「この町には、こんなお店がある」
と覚えてもらうことです。
店名。
看板メニュー。
その土地らしい料理。
印象に残る写真。
「あれを食べてみたい」
と思わせるもの。
駅看板の仕事は、その場ですべてを説明することではありません。
次にその店を見つけたときに、「あ、あの店だ」と思い出してもらうこと。
それだけでも大きな役割があります。
Google時代だから、リアルな看板が意味を持つこともある
今は、飲食店をGoogleで探す時代です。
だから、
「駅看板なんて古い」
「今はGoogleやSNSだけでいい」
と思うかもしれません。
しかし、むしろGoogleで店を探す時代だからこそ、駅看板の役割を違う角度から考える必要があります。
駅看板で認知する。
Googleで再び出会う。
口コミを見る。
写真を見る。
公式サイトを見る。
そして、
「やっぱりここにしよう」
となる。
つまりリアルな広告とデジタルの情報は、競争しているのではありません。
組み合わさることで、お客様の意思決定を後押しすることがあります。
駅看板だけで何人来たか。
Googleだけで何人来たか。
それだけでは測れない集客効果があるのです。
「見たことがある」をつくることも集客である
飲食店の集客というと、
「何人来店したか」
ばかりを考えがちです。
しかし、その前には、
知ってもらう。
覚えてもらう。
もう一度見つけてもらう。
調べてもらう。
安心してもらう。
そしてようやく、
「行ってみよう」
があります。
特に観光地では、お客様は知らない店ばかりの中から一軒を選んでいます。
だから、
「見たことがある」
という状態をつくることにも意味があります。
駅看板は、その最初のきっかけになり得るのです。
原島 純一の視点
駅に看板を出している飲食店を見ると、
「こんなところに看板を出して、本当にお客様が来るのだろうか」
と思うことがあります。
しかし、私は看板の効果を、その場から直接来店した人数だけで考えるべきではないと思っています。
観光客は駅で店を知り、その後Googleで店を探し、口コミを読み、料理写真を見ます。
そのとき、
「あ、さっき見た店だ」
となる。
そして、
「駅にも看板があった」
「Googleでもよく出てくる」
「口コミも多い」
という情報が重なり、
「有名なお店なんだ」
「ここなら間違いなさそうだ」
という安心につながっていくことがあります。
大切なのは、駅看板だけでお客様を動かそうとすることではありません。
駅看板で認知してもらい、次の接触で選ばれやすくする。
Google、ホームページ、店頭、口コミなど、それぞれを別々の集客手段として考えるのではなく、お客様が店を選ぶまでの一つの流れとして考える。
私は、観光地の飲食店では、こうした「何度か情報に触れてもらう設計」も集客の大切な考え方だと思っています。
