海沿いの観光地を歩いていると、海鮮料理店の前に何本もの「のぼり」が立っている光景をよく見かけます。
「海鮮丼」
「浜焼き」
「焼きはまぐり」
「生しらす」
「岩ガキ」
風が吹くたびに、色鮮やかなのぼりが大きく揺れています。
Googleマップがあり、Instagramがあり、スマートフォンで店を探すことが当たり前になった今でも、こうした昔ながらの「のぼり」はなくなりません。
なぜなのでしょうか。
単に、
「ここで海鮮丼が食べられます」
と伝えるだけなら、看板でもメニューでもできます。
私は、海沿いの観光地にある「のぼり」には、それとは少し違う役割があると思っています。
店頭ににぎわいをつくり、活気を感じさせ、その場所で食事をすることへの期待値を高める。
海沿いの観光地では、のぼりそのものが店の雰囲気をつくる一部になっているのです。
のぼりがあると「ここにお店がある」と気づく
まず、のぼりには店の存在に気づいてもらう役割があります。
海沿いの道路を車で走っている。
観光地を歩いている。
建物だけでは、そこが飲食店なのか分かりにくいことがあります。
しかし、
「海鮮」
「浜焼き」
というのぼりが何本か立っていれば、
「あ、ここにお店がある」
と気づきます。
店名を知らなくてもいい。
看板をじっくり読まなくてもいい。
まず、
「ここで何かおいしそうなものが食べられそうだ」
と感じてもらう。
のぼりは、その最初のきっかけになります。
のぼりが店頭に「にぎわい」をつくる
何も置かれていない店頭と、何本もののぼりが立っている店頭。
同じ建物でも、見たときの印象はかなり変わります。
建物は動きません。
看板も動きません。
しかし、のぼりは風で動きます。
海風で、
「浜焼き」
「海鮮丼」
という文字が大きく揺れている。
そこに魚介が並んでいる。
人が歩いている。
店員さんが動いている。
すると、店頭全体に「動き」が生まれます。
この動きが、
「なんだか、にぎわっているな」
という印象につながります。
のぼりは単なる情報伝達の道具ではなく、店頭ににぎわいをつくる演出にもなっているのです。
にぎわいが「活気」に変わる
そして、店頭のにぎわいは、お客様から見ると「活気」に変わります。
海鮮料理店の場合、この活気はとても大切です。
静まり返った店頭。
人の気配がない。
何が売られているのかも分からない。
それよりも、
のぼりが動いている。
魚介が並んでいる。
浜焼きの煙が上がっている。
人が行き交っている。
店員さんの声が聞こえる。
そんな店頭を見ると、
「ここ、なんだかおいしそうだな」
と感じます。
まだ料理を食べていません。
味も分かりません。
それでも、店頭から受ける印象によって、料理への期待が少しずつ高まっていきます。
活気があると「魚も新鮮そう」に感じる
ここが、海鮮系の飲食店では特に面白いところです。
のぼりがあるから、魚の鮮度が上がるわけではありません。
しかし、
魚介が並んでいる。
人が動いている。
浜焼きをしている。
のぼりが風にはためいている。
店頭に活気がある。
こうしたものが組み合わさると、
「ここの魚、新鮮そうだな」
と感じることがあります。
反対に、どれだけ良い魚を使っていても、店頭に活気がなく、何を売っているのか分からなければ、その鮮度感はお客様には伝わりません。
つまり、商品の品質そのものだけではなく、
「品質が良さそうに感じられる店頭」
をつくることも大切なのです。
もちろん、実際に新鮮な魚を提供していることが大前提です。
しかし、その価値を食べる前から感じてもらえるかどうか。
ここにも店頭づくりの役割があります。
海辺に来たという「特別感」をつくる
観光客は、単にお腹を満たすためだけに海沿いの観光地へ来ているわけではありません。
せっかく海まで来た。
せっかく港町へ来た。
だから、
「新鮮な魚を食べたい」
「浜焼きを食べたい」
「海鮮丼を食べたい」
と思います。
そんなとき、
海が見える。
潮の香りがする。
店頭には魚介が並んでいる。
浜焼きの煙が上がっている。
そして、
「海鮮」
「浜焼き」
というのぼりが海風にはためいている。
その景色全部が、
「海まで来たんだな」
という気分を高めてくれます。
普通の住宅街で海鮮丼を食べるのとは、少し違います。
料理だけではなく、その場所で食べること自体が特別な体験になる。
海沿いの観光地では、店頭の雰囲気も、その体験をつくる一部なのです。
のぼりは「海辺で食べる体験」への期待をつくる
そう考えると、のぼりの役割も少し違って見えてきます。
「海鮮丼があります」
という情報を伝えるだけではありません。
のぼりが店頭ににぎわいをつくる。
にぎわいが活気になる。
活気が、
「魚も新鮮そう」
という印象につながる。
そして、
「せっかく海まで来たんだから、ここで食べたい」
という期待につながっていく。
つまり、
のぼりは魚を売っているだけではありません。
「海辺で新鮮な魚を食べる」という体験への期待をつくっているのです。
まだ店に入っていない。
まだ注文もしていない。
まだ一口も食べていない。
それでも、お客様の食事体験は店頭から少しずつ始まっています。
季節が変われば、のぼりも変わる
のぼりは季節商品との相性も非常に良い販促物です。
例えば、
春なら「生しらす」。
夏なら「岩ガキ」。
秋なら「秋刀魚」。
冬なら「カニ」「寒ブリ」。
その土地、その季節だからこそ食べたいものがあります。
そして、のぼりは比較的簡単に入れ替えることができます。
季節が変わったら、店頭ののぼりも変える。
すると、
「今はこれがおいしい季節なんだ」
と観光客に伝えることができます。
私は、のぼりは、
店頭を季節に合わせて「着替えさせる」道具
でもあると思っています。
季節によって食材が変わる海鮮料理店だからこそ、この使い方はよく合います。
ただ、のぼりを出せばいいわけではない
もちろん、何本でも出せばいいわけではありません。
色褪せている。
破れている。
傾いている。
季節外れの商品が出たままになっている。
「海鮮丼」
「ランチ」
「宴会」
「テイクアウト」
「ソフトクリーム」
と、違う情報がバラバラに並んでいる。
これでは、にぎわいではなく、
「雑然としている」
という印象になってしまうことがあります。
また、高級な日本料理店や、静かな時間そのものを価値にしている店なら、のぼりをたくさん出すことで世界観を壊してしまうこともあります。
大切なのは、
「のぼりを出すこと」
ではありません。
自分の店で、お客様にどんな気分になってほしいのか。
そこから考えることです。
店頭は、きれいにすればいいわけではない
店を改装すると、
「できるだけすっきりさせよう」
「余計なものは置かないようにしよう」
と考えることがあります。
もちろん、それが合う店もあります。
しかし、海沿いの観光地にある海鮮料理店まで、すべて無機質で静かな店頭にすればいいとは限りません。
きれいになった。
おしゃれになった。
でも、
「海まで来て、新鮮な魚を食べるワクワク感」がなくなってしまった。
それでは、観光地の店として大切なものまで消してしまう可能性があります。
店頭づくりの目的は、単にきれいにすることではありません。
これから店の中で体験することへの期待値を高めること。
海鮮料理店なら、
「新鮮そう」
「活気がある」
「ここで海鮮を食べたい」
「海まで来た感じがする」
と思ってもらう。
そのための店頭演出の一つとして、のぼりがあるのです。
原島 純一の視点
私は、のぼりを単なる「商品名を書いた販促物」として考えないほうがいいと思っています。
特に海沿いの観光地にある海鮮料理店では、のぼりが店頭に動きをつくり、にぎわいを生み、それが店の活気につながることがあります。
そして、その活気が、
「魚が新鮮そう」
「ここで食べたらおいしそう」
という期待につながっていく。
さらに、海風にはためく「浜焼き」「海鮮」「岩ガキ」といったのぼりそのものが、
「海まで来た」
という観光客の気分を高めることもあります。
観光地では、料理だけが商品ではありません。
その土地へ来たこと。
その場所で食べること。
そこで感じた雰囲気。
それらも含めて旅の思い出になります。
だから私は、店頭を単に「きれいに整える場所」として考えるのではなく、
これから始まる食事への期待をつくる場所
として考えることが大切だと思っています。
のぼりが活気を生み、その店らしい雰囲気をつくり、「ここで食べたい」という期待を高める。
私は、海沿いの観光地では、そんな昔ながらの「のぼり」にも、まだ大きな役割があると考えています。
