なぜ常連客は、少しずつお店から離れていってしまうのか?
「最近、昔から来てくれていたお客様を見なくなったなぁ。」
飲食店を長く経営していると、そんなことがあります。
以前は毎週のように来てくれていたお客様。
毎月、決まった日に家族で来てくれていたお客様。
スタッフとも顔なじみで、いつもの席、いつもの料理まで決まっていたお客様。
ところが、あるとき気がつくと、
「あれ? 最近来ていないな。」
となる。
常連客は、なぜ店から離れていくのでしょうか。
常連客は、突然いなくなるわけではない
常連客が減ってくると、
「LINEで情報を送ったほうがいいのではないか。」
「常連客向けのサービスを始めよう。」
「ポイントカードを作ろう。」
と考えたくなります。
もちろん、そうした取り組みも必要かもしれません。
でも私は、その前に確認したいことがあります。
以前と比べて、QSCが落ちていないでしょうか。
料理の品質。
提供時間。
接客。
清潔さ。
スタッフの気遣い。
店側は毎日そこで働いているため、少しずつ起きている変化には意外と気づきません。
しかし、常連のお客様は違います。
「以前のこの店」を知っています。
だからこそ、小さな変化にも気づくのです。
「もう行かない」と思うほどではない
例えば、
「以前は、こんなに待たされなかったのになぁ。」
「最近、料理が出てくるのが遅くなったなぁ。」
「なんか、お店が汚くなってきたなぁ。」
「サービスの要領が悪くなったなぁ。」
「ずっと通っているのに、新規のお客様みたいな扱いになったなぁ。」
一つひとつは、
「もう二度と来ない。」
と思うほどの出来事ではありません。
だから、お客様もクレームを言わないかもしれません。
ただ、
「以前とは、なんか違うなぁ。」
という小さな違和感だけが残ります。
私は、この小さな違和感の積み重ねが怖いと思っています。
常連客は「来なくなる前」に回数が減っている
月に4回来ていたお客様が、翌月から突然ゼロになるとは限りません。
月4回だった来店が、
月3回になり、
月2回になり、
月1回になり、
数か月に1回になり、
いつの間にか来なくなる。
経営者が、
「そういえば、最近○○さんを見ないな。」
と気づくよりずっと前から、お客様の気持ちは少しずつ離れ始めていたのかもしれません。
だから見るべきなのは、
「なぜ来なくなったのか。」
だけではありません。
「なぜ来店頻度が落ち始めたのか。」
なのです。
「今どうか」ではなく、「以前と比べてどうか」
QSCを確認するときにも、大切な視点があります。
それは、
「今、問題があるか。」
だけを見るのではなく、
「以前と比べてどうなのか。」
を見ることです。
以前は10分で出ていた料理が、今は20分かかっていないか。
以前はベテランスタッフが店全体を見ながら動いていたのに、今はお客様がスタッフを呼ばなければならなくなっていないか。
以前はいつもきれいだった入口やトイレが、少しずつ汚れていないか。
以前なら、
「○○さん、いらっしゃいませ。」
だったのに、
今は、
「何名様ですか?」
から始まっていないか。
店側にとっては小さな変化でも、
「以前の店」を知っている常連客にとっては、大きな変化なのかもしれません。
「好きだった店」が「普通の店」に変わっていく
繁盛店が怖いのは、一つの大きな失敗だけではありません。
「少しくらい大丈夫。」
という小さな妥協の積み重ねです。
料理の提供が少し遅くなる。
看板商品の品質に少しばらつきが出る。
掃除が少し甘くなる。
スタッフの気遣いが少し減る。
常連のお客様の名前を知っているスタッフが少なくなる。
一つだけなら、お客様は許してくれるかもしれません。
でも、それがいくつも積み重なったとき、
お客様の中で、
「好きだった店」が「普通の店」に変わっていきます。
私は、ここが常連客が離れていく大きな分岐点だと思っています。
でも、QSCだけでは説明できないこともある
料理がおいしい。
サービスがきちんとしている。
店内が清潔。
必要以上に待たされない。
これらは飲食店として大切な土台です。
しかし、長く通っているお客様が好きだったのは、それだけでしょうか。
私は名店や老舗旅館を訪れると、季節の花やあしらいをよく見ます。
玄関には季節の花。
店内には季節を感じる飾り。
料理の器にも季節感がある。
でも、
「なぜこの店に来るんですか?」
と聞かれて、
「玄関に花が飾ってあるからです。」
と答えるお客様は、ほとんどいないでしょう。
お礼状や季節の挨拶状も同じです。
それだけを理由に来店しているわけではありません。
それでも、こうした小さなものがなくなったとき、
お客様は何となく、
「以前とは違う。」
と感じることがあります。
「来店理由」ではなく、「来店し続ける理由」
季節の花がある。
自分のことを覚えてくれている。
いつものスタッフが声をかけてくれる。
毎年、季節の挨拶が届く。
いつもの料理が、いつもの味で出てくる。
一つひとつは、
「この店へ行こう。」
という直接的な来店理由ではないかもしれません。
しかし、その小さな積み重ねによって、
お客様と店とのつながりが生まれています。
つまり、
「来店理由」にはならなくても、「来店し続ける理由」になっているものがある。
私は、ここを大切にしたいと思っています。
「店らしさ」は数字では見えにくい
こうした取り組みには、一つ難しいところがあります。
効果を数字で測りにくいことです。
花を飾ったから売上が何円増えた。
お礼状を送ったから何人来店した。
常連のお客様の名前を呼んだから客単価が何円上がった。
そんなふうに測ることは難しいでしょう。
だから、
「これ、意味あるのかな。」
となりやすい。
そして効率化やコスト削減の中で、少しずつなくなっていきます。
ところが、お客様からすると、
好きだった「あの店らしさ」が、一つずつなくなっている。
ということがあります。
数字では見えにくいからこそ、注意しなければならない価値があります。
事業承継で、本当に残すべきものは何か
これは、特に事業承継したお店で考えてほしいことでもあります。
だからといって、
「昔からやっていることは、すべて残しましょう。」
という話ではありません。
古いやり方を見直すこと。
無駄な仕事を減らすこと。
新しい仕組みを取り入れること。
どれも必要です。
ただ、先代が長年続けてきたことの中には、
「昔からやっているだけのこと」
と、
「お客様に愛されていたから続いてきたこと」
が混在しています。
ここを区別せず、
「古いから。」
「効率が悪いから。」
「売上につながっているか分からないから。」
と全部なくしてしまったらどうでしょう。
先代が何十年もかけてつくってきた、
お客様とのつながりまでなくしてしまうかもしれません。
大切なのは、昔のやり方を守ることではありません。
「なぜ、それをやっていたのか。」
を考えることです。
繁盛店が守っているのは「やり方」ではない
繁盛店を見ていると、昔のやり方を何でも残しているわけではありません。
変えるところは変えています。
でも、
料理の品質。
店の空気。
お客様への気遣い。
季節感。
看板商品の価値。
その店らしさ。
こうした、
「お客様がその店を好きであり続ける理由」
は簡単には手放しません。
やり方は変えてもいい。
でも、
そのやり方によって生まれていた価値まで、なくしてはいけない。
ここを見極めることが大切なのだと思います。
原島純一の視点
常連客が減ったという相談を受けたとき、私は最初から販促策を考えることはありません。
まず店を見ます。
料理は以前と同じ品質なのか。
提供時間は遅くなっていないか。
店内はきれいなのか。
サービスは以前より悪くなっていないか。
常連のお客様を、きちんと常連のお客様として迎えられているか。
常連客が離れる理由は、一つの大きな失敗とは限りません。
むしろ、
「以前とはなんか違うなぁ。」
という小さな違和感が積み重なり、少しずつ来店頻度が落ちていくことがあります。
そして私は、QSCを確認したあとに、もう一つ見ます。
「以前この店にあって、今なくなっているものはないか。」
季節の花かもしれません。
お礼状かもしれません。
昔からいたスタッフとの会話かもしれません。
看板料理に使っていた食材かもしれません。
こうしたものは、お客様自身も、
「それがあるから通っています。」
とは言わないかもしれません。
でも、それがあることで、お客様と店がつながっていた可能性があります。
だから私は、昔からやっていることを何でも残せばいいとは考えていません。
反対に、数字で効果が見えないからといって、簡単になくしていいとも考えていません。
大切なのは、
「なぜ、それをやっていたのか。」
を考えることです。
守るべきなのは、昔のやり方そのものではありません。
そのやり方によって生まれていた、お客様とのつながりです。
私は、QSCという飲食店の土台を守りながら、数字には表れにくい小さな価値を積み重ね続けることが、お客様に長く愛される繁盛店につながると考えています。
