なぜ人気店は「旅の目的」になれるのか?
旅行へ行くとき、多くの人はまず行き先を決めます。
「高山へ行こう。」
「箱根へ行こう。」
「金沢へ行こう。」
そして、そのあとで、
「どこで食べよう。」
とお店を探します。
これは、ごく普通の旅行の順番です。
つまり飲食店から見れば、
観光地が集めてくれたお客様の中から、自分たちの店を選んでもらう。
ということになります。
でも、人気店を見ていると、この順番が逆になることがあります。
「あの店へ行きたい。」
だから、
「あの街へ行こう。」
となるのです。
飲食店そのものが、旅の目的になる。
私は、これは観光地の飲食店にとって、とても大きな可能性だと思っています。
「観光地へ行く」から「店へ行く」へ
通常、観光地の飲食店は、その地域の観光需要に大きく影響されます。
観光客が増えれば、お客様も増える。
観光客が減れば、お客様も減る。
天気。
季節。
暦。
イベント。
交通事情。
その年の旅行需要。
自分たちではコントロールできないものによって、売上が大きく変わります。
だからこそ、
「今年は観光客が多い。」
「今年は人が少ない。」
という話になりがちです。
でも、本当に強い店になると、
観光客が来るのを待つだけではなくなります。
その店へ行くために、人が動き始めます。
飲食店が「目的地」になる
例えば旅行の計画を立てているとき、
「あの店、一度行ってみたいんだよね。」
という話から旅が始まることがあります。
その店の料理を食べたい。
あの雰囲気を体験したい。
SNSで何度も見ていて気になっている。
友人から勧められた。
ずっと前から行ってみたかった。
そうなると、その店はもう、
旅行中に食事をする場所
ではありません。
旅行する理由の一つ
になっています。
これは飲食店にとって、とても大きな変化です。
少しくらい遠くても行きたくなる
普通、お店を選ぶときには立地が重要です。
駅から近い。
観光スポットから近い。
ホテルから歩いて行ける。
便利な場所にあることは、大きな強みです。
でも、店そのものが目的になると少し変わります。
駅から離れていても行く。
車でわざわざ向かう。
行列があっても待つ。
旅程を調整して営業時間に合わせる。
つまり、
お客様がお店に合わせて行動してくれるようになります。
これは、
「近くにあったから入った店」
とは、まったく違います。
「美味しい」だけでは目的地にはならない
もちろん、料理が美味しいことは大切です。
でも私は、美味しいだけで旅の目的になるとは思っていません。
世の中には、美味しい店がたくさんあります。
それでも、
「一度は行ってみたい。」
「あそこまで行って食べたい。」
と思わせる店には、何かがあります。
圧倒的な看板料理。
そこでしかできない体験。
長い歴史。
独特の店構え。
店主の存在。
その土地とのつながり。
そして、
「あの店でなければならない理由」
があります。
前の記事で考えた、
「何を食べよう。」から「あの店で食べたい。」へ。
その気持ちがさらに強くなったとき、
「あの店へ行くために旅をしよう。」
へ変わっていくのだと思います。
観光地の力を借りるだけではなくなる
観光地の飲食店には、大きなメリットがあります。
すでに、その地域へ多くの人が来てくれることです。
歴史的な街並み。
温泉。
自然。
祭り。
観光施設。
さまざまな魅力が人を呼んでくれます。
飲食店は、その恩恵を受けています。
だから私は、
観光地の力を借りて商売をすること自体は、何も悪いことではない
と思っています。
むしろ、その需要をしっかり取り切るべきです。
でも、その先があります。
観光地に来た人から選ばれる店から、観光地へ人を呼べる店になる。
ここまで行けたら、とても強い。
一軒の店が人を呼べば、地域にもお客様が増える
店を目的に地域を訪れたお客様は、食事だけをして帰るとは限りません。
せっかく来たのだから、街を歩く。
観光スポットを見る。
カフェに入る。
お土産を買う。
もう一軒、別のお店で食事をする。
場合によっては宿泊する。
つまり、一軒の飲食店が呼んだお客様が、
地域のさまざまな場所で消費してくれる可能性があります。
こう考えると、
人気店が一軒できることは、その店だけの話ではありません。
地域全体にも価値があります。
飲食店同士は、本当に競合なのか
飲食店を経営していると、近くのお店が気になります。
「あの店にお客様を取られている。」
「また新しい店ができた。」
「競合店が増えた。」
確かに、同じ時間帯に同じお客様を取り合う場面もあります。
だから競争がないとは言いません。
でも、観光地ではもう一つの見方ができると思っています。
旅行者は、一回の旅行で一食しか食べないわけではありません。
昼食を食べる。
夕食を食べる。
翌日の昼食も食べる。
カフェにも行く。
お土産も買う。
だから、
魅力的な店が増えることは、必ずしも自店のお客様が減ることではありません。
むしろ、
「あの店にも行きたい。」
「この店にも行きたい。」
という理由が増えることで、その地域そのものの魅力が高まります。
「食べたい店」が多い街は、旅先として強くなる
旅行先を考えるとき、
「美味しいものがたくさんある街。」
というのは大きな魅力になります。
一軒だけではありません。
寿司ならあの店。
ラーメンならあの店。
郷土料理ならあの店。
甘いものならあの店。
夜ならあそこへ行きたい。
翌日の昼はここへ行きたい。
そんな店が増えていけば、
食べること自体が、その街へ行く理由になります。
だから私は、観光地の飲食店同士を、
単なる競合としてだけ見る必要はないと思っています。
競合ではなく、高め合う仲間
一軒一軒のお店が、自分たちの強みを磨く。
看板料理を磨く。
店を磨く。
接客を磨く。
その土地ならではの価値を伝える。
「あの店へ行きたい。」
と思われる店を、それぞれが目指す。
そんな店が一軒、二軒、三軒と増えていく。
すると、
一軒の店の魅力が、地域全体の魅力につながっていきます。
もちろん、商売ですから競争はあります。
でも同時に、
一緒にその観光地の価値を高めていく仲間でもある。
私は、観光地ではこの視点も大切だと思っています。
個店が強くなれば、観光地も強くなる
観光地の魅力というと、
大きな観光施設。
有名な寺社。
温泉。
自然。
イベント。
そんなものを思い浮かべるかもしれません。
でも私は、観光地の魅力はそれだけではないと思っています。
一軒の食堂。
一軒の寿司屋。
一軒のラーメン店。
一軒の老舗。
そんな小さな店も、観光地をつくっています。
それぞれのお店が、
「ここへ来たら、この店へ行きたい。」
と思われる存在になる。
その店が増えていけば、
やがて、
「この街へ行きたい。」
につながっていきます。
原島純一の視点
私は、観光地の飲食店には大きな可能性があると思っています。
最初は、
観光地に来てくれたお客様から、自分たちの店を選んでもらう。
それでいいと思います。
でも、店を磨き続けていけば、
「あの店で食べたい。」
と店名で選ばれるようになる。
そして、その先には、
「あの店へ行きたいから、この街へ行こう。」
という世界があります。
そうなれば、その店はもう単なる飲食店ではありません。
旅の目的の一つです。
そして私は、そこからさらに先を考えたいと思っています。
一軒の繁盛店だけではありません。
それぞれの店が、自分たちにしかない魅力を磨く。
「あの店にも行きたい。」
「この店にも行きたい。」
そんな個店が地域に増えていく。
そうすれば、
その街そのものが、もっと魅力的な旅先になります。
だから私は、観光地の飲食店同士は、単にお客様を取り合う競合だけではないと思っています。
お互いに店を磨き、その土地の魅力を一緒に高めていく仲間でもある。
観光地の魅力は、大きな施設だけがつくるものではありません。
一軒一軒の小さな店も、その土地の魅力をつくっています。
一軒の繁盛店が、旅の目的になる。
そんな個店が集まれば、その街そのものが旅の目的になる。
私は、観光地の飲食店には、そんな力があると考えています。
