【特別連載①】日本の豚肉、その価値の秘密。~品種・飼料・風土が育てたブランド豚の物語~

地域から学ぶ|特別連載 第1回/全6回

日本の豚肉、その価値の秘密。

~品種・飼料・風土が育てたブランド豚の物語~

ランドレース・大ヨークシャー・デュロック。日本の養豚を支える交配の仕組み

スーパーの精肉売場や飲食店のメニューで、「三元豚」という言葉を見かけることがあります。「三元豚のロースかつ」「三元豚のしゃぶしゃぶ」「三元豚使用」。こう書かれていると、何となく特別な豚肉のように感じませんか。

ところが、三元豚について調べてみると、意外な事実が見えてきます。

三元豚とは、特定の高級ブランドや品種の名前ではありません。基本的には、3つの品種を掛け合わせて生産された豚のことなのです。

しかも、この交配方法は日本の養豚で広く使われています。では、なぜわざわざ3つの品種を掛け合わせるのでしょうか。1つの品種だけではいけないのでしょうか。

そして、なぜ数ある品種の中から、ランドレース、大ヨークシャー、デュロックが選ばれたのでしょうか。その理由を調べていくと、豚肉のおいしさだけでなく、子豚を産み育てる能力や生産効率まで考えられた、養豚の仕組みが見えてきます。

目次

三元豚を理解するには、まず3つの品種を知る

ランドレース種(L)

デンマークで改良された白い豚です。胴が長く、産子数や子育て能力に優れることから、母豚の系統として広く利用されています。

大ヨークシャー種(W)

イギリスで成立した白い豚です。繁殖能力、発育、体の丈夫さなどを重視して改良され、ランドレースと組み合わせて母豚を作るのに利用されます。

デュロック種(D)

アメリカで成立した赤褐色の豚です。発育や産肉性に加え、肉質面でも評価され、三元交配では父豚として使われることが多い品種です。

3品種の役割は同じではありません。ランドレースと大ヨークシャーは、主に優れた母豚を作るために組み合わせる。そこへデュロックを掛け合わせ、肉として出荷する豚を生産する。つまり、子豚を産み育てる能力と、肉豚としての成長や品質を分けて考えているのです。

なぜ、2品種ではなく3品種なのか

ここで登場するのが「雑種強勢(ざっしゅきょうせい)」という考え方です。異なる品種を掛け合わせると、子どもの繁殖能力や強健性などが、両親の平均を上回ることがあります。この現象を雑種強勢といいます。

日本の養豚では、まずランドレースと大ヨークシャーを交配して、繁殖能力に優れた母豚を作ります。そして、その母豚にデュロックの雄を掛け合わせます。

代表的な三元交配の仕組み

ランドレース(L) × 大ヨークシャー(W)

↓

LWの母豚
繁殖能力と雑種強勢を利用

+

デュロック(D)の雄豚

↓

三元豚(LWD)
食肉用として育てる豚

もちろん、2品種を掛け合わせた豚や、純粋種を育てる方法もあります。3品種でなければおいしい豚肉にならない、ということではありません。

繁殖能力の高い母豚を作り、その子どもに肉質や発育の良さを加える。この合理的な仕組みが、三元交配が普及した大きな理由です。

日本の養豚は、なぜ三元交配を選んだのか

昔の日本では、中ヨークシャーなどの純粋種を肉豚として育てる方法も一般的でした。しかし、豚肉の需要が増えるにつれて、養豚には安定した生産が求められるようになります。

  • たくさんの子豚を産むこと
  • 健康に育てること
  • 効率よく成長すること
  • 品質の安定した豚肉を出荷すること

こうした条件を満たすため、品種改良と交配技術が発達していきました。日本の肉豚生産は、純粋種中心から雑種強勢を利用した交雑種中心へ移行してきました。

ここで面白いのは、豚肉のおいしさだけを追求して三元交配が広まったわけではないということです。生産者にとっては、繁殖性や発育性も重要です。消費者にとっては、品質や価格が重要です。

品質と生産性を両立させるために、三元交配が日本の養豚を支える仕組みになっていった。

三元豚なのに、なぜブランド豚があるのか

ここで、もう一つ疑問が生まれます。三元豚が一般的な生産方法なら、なぜ「ブランド三元豚」が存在するのでしょうか。

実は、同じLWDという組み合わせでも、すべての豚が同じ肉質になるわけではありません。例えば、デュロック種の中にもさまざまな系統があり、肉質を重視して改良された系統があります。

茨城県の「常陸の輝き」も、肉質を重視して改良されたデュロック系統「ローズD-1」を父豚として利用する三元豚です。

同じ3品種でも、どの系統を選ぶかによって違いが生まれる。

さらに、何を食べさせるか、どのように育てるかによっても、肉質は変わります。ここが今回の連載の大きなテーマにつながっていきます。

豚肉の違いは、血統だけでは決まらない

今回、三元豚の仕組みを調べてみると、豚肉の生産が非常によく考えられた仕組みであることが分かります。

ランドレースと大ヨークシャーで繁殖能力を高め、デュロックで肉質や産肉性を重視する。それぞれの品種の長所を組み合わせることで、品質と生産性の両立を目指してきたのです。

しかし、三元豚の話はここで終わりません。同じ三元豚でも、産地によってブランドが違います。飼料によって肉の特徴が変わることもあります。

さらに、純粋なバークシャー種を育てる鹿児島黒豚のように、三元交配とは異なる方法で価値を作っている豚肉もあります。

豚肉の違いは、血統だけでは決まらない。

品種、交配、飼料、飼育方法、そして地域の歴史。それぞれが組み合わさることで、日本各地の豚肉ブランドが生まれています。

次回予告|なぜ鹿児島黒豚は高級なのか

次回は、その中でも特に歴史のある「鹿児島黒豚」を取り上げます。なぜ鹿児島では、三元豚とは異なるバークシャー種を育て、高級豚肉としてブランド化してきたのでしょうか。

そこには、薩摩の歴史と、生産者たちが積み重ねてきた工夫があります。

主な参考資料

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