「求人を出しても応募が来ない」
「ようやく採用できても、長く続かない」
「繁忙期に人が足りず、お客様をお断りすることがある」
観光地の飲食店や宿泊施設では、人手不足が経営上の大きな課題になっています。
特に観光地では、平日と週末、通常期と繁忙期で必要な人員が大きく変わります。
忙しい時期に合わせて従業員を確保すれば、 閑散期には人件費の負担が重くなる。 一方、通常期に合わせた人員配置では、繁忙期に対応しきれません。
そんな中、観光庁が新しい取り組みを進めています。
2026年10月8日、観光庁は 「観光地におけるワーキングホリデーを通じた双方向交流の促進事業」 の採択結果を公表しました。
この取り組みをきっかけに、 観光地の人手不足について、少し違った角度から考えてみたいと思います。
人手不足は、採用する人数を増やすだけで解決できる問題なのでしょうか。
観光庁が進めるワーキングホリデー外国人材の受入実証
今回、観光庁が公表したのは、 ワーキングホリデー外国人材の受入環境を整備し、 人材活用のあり方を検証する実証事業です。
2026年6月25日から8月3日まで協力地域を募集し、 10月8日に採択結果が公表されました。
目的は、外国人材の受入環境を整え、 その成果をほかの観光地にも展開することで、 持続的な人材確保につなげることです。
ここで注意したいのは、 今回の発表が外国人の就労要件を緩和する制度改正ではないことです。
あくまで、観光地における受入環境や 人材活用の方法を検証する取り組みです。
ワーキングホリデーは、若者が一定期間海外に滞在し、 旅行や文化交流などを行いながら、 認められた範囲で就労できる制度です。
ただし、利用できる国・地域、年齢、滞在期間、 就労条件などは制度や国籍によって異なります。
したがって、飲食店が外国人材を採用する場合には、 本人の在留資格や就労条件を個別に確認する必要があります。
今回注目したいのは、制度そのものよりも、 観光地が外国人材を迎えるための環境づくりを考え始めていることです。
観光地の人手不足は、都市部とは事情が違う
都市部の飲食店であれば、近隣に多くの居住者がいて、 通勤できる範囲から従業員を募集することができます。
しかし、地方の観光地では事情が異なります。
人口が少なく、そもそも働き手が限られている地域もあります。 さらに、観光シーズンには一時的に必要な人員が増えます。
例えば、繁忙期の人員配置
通常期には5人で運営できる店舗でも、 繁忙期には8人必要になるかもしれません。
しかし、その3人を繁忙期だけ確保するのは簡単ではありません。
近隣に住む人だけでは足りず、 遠方から働き手を迎える必要が出てきます。
ここで問題になるのが、住む場所と生活環境です。
求人を出して採用が決まったとしても、 住居がなければ働き始めることはできません。
通勤手段がない、生活用品をそろえられない、 困ったときに相談する相手がいない。
こうした問題は、外国人材に限らず、 遠方から従業員を迎える観光地に共通する課題です。
採用できることと、安心して働けることは別の問題なのです。
外国人材を迎える前に、店舗が整えておきたい4つのこと
ワーキングホリデー外国人材の活用を考えるなら、 まずは店舗側の受入体制を確認する必要があります。
1.住居と生活環境をどうするか
地方の観光地では、従業員が住める場所の確保が課題になります。
宿泊施設であれば従業員寮を持っている場合もありますが、 小規模な飲食店では難しいこともあるでしょう。
その場合、地域の宿泊施設や不動産事業者などと 連携する方法も考えられます。
一店舗だけで解決できない問題だからこそ、 地域全体で取り組む余地があります。
2.仕事を教える仕組みがあるか
新しい従業員が入るたびに、 店長やベテランスタッフが一から仕事を教えている店舗は少なくありません。
しかし、それでは教育する側の負担が大きくなります。
料理の提供手順、開店準備、片付け、清掃、レジ操作。 こうした仕事を整理し、 誰でも確認できるようにしておくことが必要です。
写真や動画を使ったマニュアルは、 言葉だけで説明するより理解しやすい場合があります。
これは外国人材のためだけではありません。
日本人の新人スタッフにも役立つ仕組みです。
3.言語の違いに対応できるか
飲食店では、接客だけでなく厨房内の指示や安全管理も重要です。
特に、アレルギー対応、衛生管理、火気の取り扱いなどは、 曖昧な理解のまま作業させるわけにはいきません。
すべてを多言語化する必要があるとは限りませんが、 重要な業務については確実に理解できる方法を考える必要があります。
また、外国語を話せる従業員がいることは、 訪日外国人への接客で役立つ可能性もあります。
ただし、外国人材だからといって、 必ず多言語接客ができるとは限りません。
本人の語学力や経験を確認し、 無理のない業務を任せることが大切です。
4.困ったときに相談できる環境があるか
慣れない土地で生活し、 初めての職場で働くことには不安もあります。
勤務時間や休日、給与、生活上の問題などについて、 相談できる人がいるかどうかは重要です。
店長一人にすべてを任せるのではなく、 担当者や相談窓口を決めておくことも考えられます。
採用して終わりではなく、 働き始めてからの支援まで含めて考える必要があります。
繁忙期に人を増やすだけでは、経営は安定しない
観光地では、繁忙期に合わせて人員を増やすことが必要な場合もあります。
しかし、採用人数だけで考えると、 閑散期の人件費負担が見えにくくなります。
そこで考えたいのが、年間を通じた人員配置です。
繁忙期には営業時間を延長する一方、 閑散期には営業時間や営業日を見直す。
予約状況に合わせて仕込み量や出勤時間を調整する。
宴会や団体予約の予定を事前に把握し、 必要な労働時間を計画する。
こうした取り組みを行ったうえで、 それでも不足する人員をどう確保するか考えることが大切です。
ワーキングホリデー外国人材も、 その選択肢のひとつになり得ます。
ただし、短期間の就労であっても、 教育や生活支援には時間と費用がかかります。
単純に人件費が安くなる手段として考えるべきではありません。
一店舗では難しくても、地域で考えれば可能性が広がる
今回の観光庁の取り組みで注目したいのは、 個別企業の採用だけでなく、 観光地における受入環境の整備を検証していることです。
小規模な飲食店が単独で住居を用意し、 生活支援や教育体制まで整えるのは簡単ではありません。
しかし、地域の宿泊施設、飲食店、観光協会、 自治体などが協力すれば、 解決策が見つかる可能性があります。
例えば、住居や生活情報を地域で共有すること、 受入時の説明や研修を共同で行うことなどが考えられます。
ただし、複数店舗での就労については、 在留資格上の条件や雇用契約、 労働時間管理などを確認する必要があります。
地域で連携することと、 自由に従業員を融通できることは同じではありません。
まずは、働く人が安心して暮らせる環境を 地域全体で整えることが重要なのではないでしょうか。
繁盛店づくりのヒント――採用できない理由を、採用市場だけに求めない
人手不足は、簡単に解決できる問題ではありません。
地域の人口減少や季節変動など、 個々の店舗では変えられない条件もあります。
それでも、店舗側で改善できることはあります。
仕事の教え方、勤務時間、作業手順、メニュー構成、人員配置。
そして、遠方から働きに来る人を迎えるための環境づくり。
今回のワーキングホリデー外国人材の実証事業は、 そうした課題を考え直すきっかけになります。
外国人材を採用するかどうかが、 この記事の結論ではありません。
人が集まらないと悩む前に、
人が働きやすく、能力を発揮できる店になっているか。
そこを見直すことが、 観光地の人手不足対策の第一歩になるのではないでしょうか。
参考資料
観光庁「観光地におけるワーキングホリデーを通じた双方向交流の促進事業」 採択結果のお知らせ(2026年10月8日) 観光庁の公式発表を見る
