【第1話】なぜ日本の味噌は、地域によってこんなに違うのか?

日本人の食卓に欠かせない味噌。毎日の味噌汁をはじめ、煮物、鍋料理、田楽など、さまざまな料理に使われています。

ところが、日本各地の味噌を比べてみると、驚くほど違いがあります。

京都には、甘くて白い西京味噌。愛知には、濃厚な旨味を持つ豆味噌。長野には、淡い色で辛口の信州味噌。そして九州には、麦の香りが特徴的な麦味噌があります。

同じ「味噌」という名前なのに、色も、香りも、甘さも違います。

なぜ、日本という一つの国の中で、これほど多様な味噌が生まれたのでしょうか。

その答えを探すために、まずは味噌の作り方から見ていきましょう。

目次

そもそも、味噌はどうやって作るのか?

味噌の基本的な材料は、大豆、麹、塩の3つです。

大豆を水に浸して柔らかく煮る、または蒸した後、つぶして麹と塩を混ぜ合わせます。それを容器に詰め、一定期間、発酵・熟成させることで味噌が完成します。

図解|味噌ができるまで

基本的な米味噌の製造工程

① 大豆を水に浸す

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② 大豆を煮る・蒸す

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③ 大豆をつぶす

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④ 大豆・麹・塩を混ぜる

麹は米などに麹菌を繁殖させて別途作る

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⑤ 容器に詰めて仕込む

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⑥ 発酵・熟成して完成

※原料や製法によって工程・熟成期間は異なります。

工程だけを見ると、それほど複雑ではありません。しかし、この発酵・熟成の過程で、実に興味深い変化が起こります。

なぜ味噌には甘味や旨味が生まれるのか?

麹菌が作り出す酵素によって、大豆のタンパク質はアミノ酸などに分解され、旨味が生まれます。また、米や麦に含まれるデンプンは糖に分解され、甘味のもとになります。

さらに、酵母や乳酸菌などの微生物が働くことで、独特の香りや酸味が生まれます。

図解|麹が甘味と旨味を生み出す仕組み

麹菌が作る酵素の働き

米・麦などのデンプン

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麹の酵素が分解

糖が生まれる → 甘味

大豆などのタンパク質

↓

麹の酵素が分解

アミノ酸などが生まれる → 旨味

さらに酵母や乳酸菌などの働きで、香りや酸味も形成されます。

つまり、味噌のおいしさは、材料を混ぜただけで生まれるものではありません。

味噌のおいしさは、微生物と酵素の働きによって、時間をかけて作り出されるものなのです。

米味噌・麦味噌・豆味噌は何が違うのか?

日本の味噌は、使用する麹の原料によって、大きく3つに分けられます。

米味噌

米に麹菌を繁殖させた米麹を使用する味噌です。全国的に広く作られており、信州味噌や西京味噌、仙台味噌なども米味噌に分類されます。

ただし、同じ米味噌でも、米麹の割合や塩分、熟成期間によって味は大きく変わります。

麦味噌

大麦や裸麦などに麹菌を繁殖させた麦麹を使用します。九州や四国の一部などで親しまれており、麦特有の香りが特徴です。

麹の割合が多く、甘味を感じるものもあります。

豆味噌

大豆そのものに麹菌を繁殖させた豆麹を使用します。愛知県を中心とした東海地方で発達した味噌で、八丁味噌などが代表的です。

濃厚な旨味や独特の渋みがあり、長期間熟成させるものが多く見られます。

なぜ、ある地域では米を使い、別の地域では麦や大豆を使うようになったのでしょうか。

味噌の違いは、その土地の農業や暮らしから生まれた

現在であれば、全国各地からさまざまな食材を取り寄せることができます。しかし、交通や物流が発達していなかった時代には、地域で手に入る原料を利用することが重要でした。

米の生産が盛んな地域では米麹を、麦が身近な地域では麦麹を使うなど、地域の農業と味噌づくりには深い関係がありました。

ただし、原料の入手しやすさだけですべてを説明できるわけではありません。

味噌は、長期間保存できる食品であると同時に、毎日の食事に欠かせない調味料でもありました。そのため、気候に合わせた発酵方法や保存方法が工夫され、地域ごとに異なる製法が発達していったのです。

気候が味噌の製法を変えた

発酵食品にとって、温度や湿度は重要な条件です。気温が高ければ微生物の活動が活発になりやすく、低温では発酵がゆっくり進みます。

そのため、味噌づくりでは、地域の気候に合わせて原料の配合や塩分、熟成方法などが工夫されてきました。

例えば、東海地方の豆味噌には、高温多湿の環境に対応して発達してきたという背景があります。大豆を主体にした独自の製法と長期間の熟成によって、濃厚な旨味を持つ味噌が作られてきました。

一方、寒冷な地域では、冬の寒さを利用して仕込み、時間をかけて熟成させる文化も育ちました。

つまり、地域の気候は、味噌の製法を考えるうえで欠かせない要素なのです。

地域の歴史や食文化も、味噌を変えていった

もう一つ見逃せないのが、地域の歴史や食生活との関係です。

例えば、京都の西京味噌は、米麹を多く使った甘い白味噌です。京都で育まれてきた料理文化や、白味噌仕立ての雑煮などとも深く結びついています。

一方、愛知県では豆味噌を使った味噌煮込みうどんや味噌田楽など、独特の料理文化が発達しました。

また、信州味噌は、地域で作られる味噌から全国に流通する商品へと発展していきました。

このように、味噌は単なる調味料ではなく、地域の歴史や産業とも関係しています。

その土地の暮らしが味噌を育て、味噌がその土地の料理を育ててきた。

味噌の地域差を知ると、郷土料理の見方が変わる

旅行先で味噌汁を飲んだとき、普段とは違う味に驚いた経験はないでしょうか。その違いは、単に調理する人の好みだけではないかもしれません。

地域で使われてきた味噌、食材、調理方法、そして長年受け継がれてきた食習慣が関係している可能性があります。

例えば、同じ大根の味噌汁でも、白味噌を使うのか、赤味噌を使うのかによって、まったく違う料理のように感じられることがあります。

観光地の飲食店にとって、こうした地域の食文化は大切な資源です。

地元の味噌を使った料理を提供するだけでなく、なぜその味噌が使われてきたのかを知り、お客様に伝える。それだけでも、何気ない一杯の味噌汁が、その土地ならではの食体験になるかもしれません。

まとめ|味噌の違いには、地域の歴史がある

日本各地の味噌が違うのは、単に味の好みが違うからではありません。

地域で利用できた原料、気候、保存の工夫、発酵技術、歴史、そして食生活。さまざまな条件が重なり、長い時間をかけて独自の味噌文化が育ってきました。

そして、そこで生まれた味が、今度は地域の郷土料理を形づくっていったのです。

普段何気なく使っている味噌にも、その土地の歴史が詰まっています。

日本の味噌文化を探る|次回・第2話

なぜ京都では、甘い白味噌が受け継がれてきたのか?

京都の歴史や料理文化から、米麹をたっぷり使った甘い白味噌が育まれた理由を探っていきます。

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