九州で刺身を食べると、醤油の甘さに驚く
九州を訪れて刺身を食べたとき、醤油の甘さに驚くことがあります。関東で一般的な濃口醤油に慣れていると、最初は戸惑うかもしれません。しかし、脂ののった魚や新鮮な刺身と合わせると、その甘さが不思議とよく合います。
なぜ九州では甘い醤油が好まれるのでしょうか。その背景をたどると、砂糖の流通、地域の食文化、そして戦後の醤油づくりがつながってきます。
甘い醤油のルーツは長崎の「シュガーロード」?
江戸時代、長崎は海外から砂糖が入ってくる重要な港でした。長崎から佐賀を経て小倉へと続く長崎街道は、現在「シュガーロード」とも呼ばれています。
街道沿いでは砂糖を使った菓子や料理が発展しました。長崎のカステラや佐賀の丸ぼうろなどは、その文化を象徴する食べ物です。九州で甘い味付けが好まれる背景に、砂糖の流通が影響したという説があります。
ただし、砂糖文化があったからといって、当時の醤油まで現在と同じように甘かったとは限りません。
現在のような甘い醤油が広まったのは戦後
九州では昔から甘い料理が好まれていましたが、現在のような甘口醤油の普及は、戦後の商品開発とも深く関係しています。
戦後、醤油の製造技術や原料事情が変化するなかで、アミノ酸液を加えた混合醤油が普及しました。そこに砂糖や甘味料を加え、甘味とうま味を強めた醤油が各地に広がっていきました。
つまり、江戸時代からの食文化がそのまま残ったというよりも、地域の味の好みと、戦後のメーカーの工夫が結びついて生まれた味だと考えられます。
九州の甘い醤油は、古くからの甘味文化と、戦後の醤油づくりの両方から生まれた味と考えられます。
九州の醤油は、南へ行くほど甘くなる?
九州の醤油はどこでも同じ甘さではありません。一般に南部ほど甘味の強い商品が多い傾向が紹介されていますが、県境で味が切り替わるわけではありません。
福岡・熊本・鹿児島などの地域ごとに違いがあり、同じ県内でもメーカーや商品によって甘さやうま味は異なります。
旅先で小さな醤油皿に少しずつ注いで比べてみると、甘さだけでなく、香りや塩味、とろみまで違うことに気づくはずです。
なぜ甘い醤油は刺身によく合うのか
九州の甘い醤油を語るうえで欠かせないのが、魚の食文化です。刺身のおいしさは魚だけで決まるわけではありません。魚の食感や脂、醤油の塩味・甘味・うま味が一緒になって味わいをつくります。
獲れたての魚の食感に甘味とうま味の強い醤油が合う、という説明もあります。ただし、魚の種類や好みによって相性は異なるため、唯一の理由とは言えません。
刺身だけでなく、熊本の馬刺しなどとの組み合わせにも注目すると、地域の調味料が料理と一緒に育ってきたことを感じられます。
九州の甘い醤油には何が入っている?
九州の甘口醤油には、醸造した醤油をベースに砂糖や甘味料を加えた商品があります。アミノ酸液を使ってうま味を調整した混合醤油も見られます。
すべての九州産醤油が同じ原材料・製法というわけではありません。ラベルを見比べると、メーカーごとの味づくりの違いが分かります。
ちなみに「甘口醤油」は味の特徴を表す呼び方で、JASの醤油の種類として独立した分類ではありません。
甘い醤油から見えてくる、地域の食文化
同じ醤油でも、地域が変われば味が変わります。それは単に甘いものが好きか、しょっぱいものが好きかという違いだけではありません。
砂糖がどこから運ばれたのか。どんな魚や料理が食べられてきたのか。地元の醤油メーカーがどんな商品をつくってきたのか。さまざまな歴史や暮らしが重なって、地域の味が形づくられてきました。
次に九州を訪れたら、ぜひ醤油にも注目してみてください。福岡の刺身、熊本の馬刺し、鹿児島の地魚。醤油の甘さや香りに目を向けると、旅の楽しみがもう一つ増えるはずです。
同じ料理でも、醤油が変われば、その土地ならではのおいしさが見えてくる。
