先日、とても興味深い取り組みを見つけました。
訪日旅行者が生成AIに旅行相談をしたとき、
「日本のどの地域を旅行先として薦めるのか」
を継続的に調べていく取り組みです。
例えば、
「東京や京都以外で、日本らしい場所へ行きたい」
「日本の郷土料理や食文化を楽しめる地域へ行きたい」
「観光客が多すぎない、日本の日常を感じられる場所へ行きたい」
そんな質問をAIにする。
するとAIが、
「この地域はいかがですか」
と旅行先そのものを提案してくれる。
この取り組みの記事を読みながら、
「ああ、ついにここまで来たのか」
と思いました。
これまで私たちは、
「AIに自分の店を選んでもらうにはどうすればいいのか」
を考えてきました。
でも、その前にもう一つある。
そもそも、その街がAIの旅行先候補に入っているのか。
ここから考えなければならない時代になるのかもしれません。
今までは、旅行先を決めてから店を探していた
これまでの旅行を考えてみます。
例えば、
「金沢へ行こう」
と決める。
そこから、
「金沢 海鮮」
「金沢 郷土料理」
「金沢 ランチ」
などと検索する。
あるいは函館なら、
「函館 海鮮」
「函館 夜景 ディナー」
と検索する。
別府なら、
「別府 とり天」
「別府 郷土料理」
と調べる。
つまり、
最初に旅行先が決まり、そのあとで飲食店を探す。
これが一般的な流れでした。
だから飲食店側も、
「地域名+料理名」
で検索されたときに、どう見つけてもらうかを考えてきました。
ホームページ。
Googleマップ。
口コミ。
グルメサイト。
SNS。
いわゆるSEOやMEOも、この流れの中にあります。
でもAIに旅行相談をするようになると、その一つ前まで変わってきます。
「金沢で何を食べる?」の前に、「どこへ行く?」をAIに聞く
例えば旅行者が、
「東京と京都は行ったことがあります。次は、日本らしい食文化を楽しめる地方都市へ行きたいです。おすすめはありますか?」
とAIに聞く。
するとAIが、
北陸。
東北。
瀬戸内。
九州。
など、いくつかの地域を提案してくれる。
さらに、
「3泊4日で、温泉と郷土料理を楽しみたい。公共交通で回りやすいところがいい」
と条件を加える。
そこでAIが、
「今回の旅行なら、この地域が合いそうです」
と候補を絞る。
旅行者は、その中から、
「じゃあ、ここへ行ってみよう」
と決める。
そのあとで初めて、
「この街では何を食べよう」
「どの店へ行こう」
という話になる。
つまり、
店を探す前に、AIが街を選ぶ。
そんな流れが増えていく可能性があります。
これは、Googleマップ対策より一つ手前の話なのかもしれない
ここが今回、一番考えたところです。
Googleマップで自分の店を見つけてもらう。
これは、もちろんこれからも大切です。
でも、
旅行者がその街へ来なければ、
そもそもGoogleマップで店を探してもらえません。
例えば、
「日本で美味しい蕎麦を食べたい」
という旅行者がいたとします。
これまでなら、自分で有名な蕎麦どころを調べていたかもしれません。
でもこれからは、
「東京から2泊3日で行けて、蕎麦文化を楽しめる地域はどこ?」
とAIに聞く。
そこで自分たちの地域が候補に入らなければ、
その地域にどれだけ良い蕎麦屋があっても、
店を探してもらうところまで来ない。
これはかなり大きな変化だと思います。
AIは、何を見て「この地域がおすすめ」と考えるのだろう
ではAIは、
何を見て、
「この地域は食文化を楽しめる場所です」
と判断するのでしょうか。
ここは、まだ単純には言えません。
AIの仕組みも変わっていくでしょうし、特定の対策をすれば必ず推薦される、という話でもありません。
でも少なくとも、
インターネット上にその地域についての情報がなければ、
AIが理解する材料も少なくなるはずです。
例えば、
地域の観光サイトに郷土料理の説明がある。
飲食店のホームページに、その料理の歴史が書かれている。
Googleマップに料理写真がある。
旅行者が口コミを書いている。
地元の人が食文化について記事を書いている。
生産者が食材について発信している。
観光協会がモデルコースを公開している。
複数の店が、それぞれ違う角度から地域の料理を紹介している。
そうした情報が積み重なって、
「この地域には、こういう食文化がある」
という姿が見えてくるのではないでしょうか。
一軒の店の発信が、街全体の情報になる
ここまで考えると、
飲食店の情報発信の意味も少し変わってくるように思います。
例えば、ある老舗蕎麦店が、
「新そば始めました」
とだけ発信する。
もちろん、それも必要です。
でも、
なぜこの地域では蕎麦が食べられてきたのか。
この土地の水と蕎麦には、どんな関係があるのか。
地元では、どんな食べ方をするのか。
何月ごろに新そばになるのか。
旅行者なら、どんな観光と組み合わせて店を利用できるのか。
そんなことまで発信したらどうでしょう。
それは一店舗の宣伝であると同時に、
地域の食文化についての情報
にもなります。
一軒だけでは小さな情報かもしれません。
でも10軒、20軒と、それぞれの店が発信する。
観光協会も発信する。
生産者も発信する。
旅行者も口コミを書く。
そうすると、
インターネット上に、
その地域らしさが少しずつ積み重なっていく。
これからは、それを人間だけではなくAIも読むようになる。
そう考えると、
一店舗の情報発信が、
街全体が旅行先として理解されるための一部
になる可能性もあると思います。
「何屋か」だけではなく、「なぜこの街で食べるのか」
飲食店のホームページを見ると、
料理の説明はたくさんあります。
飛騨牛。
海鮮。
蕎麦。
鰻。
寿司。
郷土料理。
でも旅行者が知りたいのは、
料理名だけではありません。
なぜ、この街でそれを食べるのか。
ここが分かると、旅の目的になります。
例えば伊勢なら、
参拝と食文化。
函館なら、
港町と海産物。
長崎なら、
海外との交流から生まれた食文化。
盛岡なら、
街に根付いた麺文化。
地域によって、
「ここで食べる理由」
は違います。
そしてその理由こそ、
AIが旅行者に、
「この地域へ行ってみてはどうですか」
と提案するときの材料になるのかもしれません。
AI時代になると、個店だけでは作れない情報もある
ここまで来ると、一店舗だけでは難しいことも出てきます。
一軒の店が、
「うちの料理は美味しい」
と発信することはできます。
でも、
「この地域には、こういう食文化があります」
を作るには、地域全体の情報が必要です。
複数の飲食店。
生産者。
市場。
酒蔵。
観光施設。
宿泊施設。
交通。
地域の歴史。
それらがつながって、
初めて一つの旅になります。
以前、大分県で多くの店が一緒になって伊勢えび料理を提供する取り組みを見たとき、
「28店集まると、旅の目的になる」
ということを考えました。
一軒の店だけなら、
「伊勢えびを食べられる店」
です。
でも地域に28店あれば、
「伊勢えびを食べに行く地域」
になる。
AI検索の時代になると、この違いはさらに大きくなるのかもしれません。
観光地の情報発信は、「店」と「街」の両方が必要になる
だからといって、
個店の情報発信が必要なくなるわけではありません。
むしろ逆です。
一軒一軒の店が、
自分たちは誰に向いているのか。
何が食べられるのか。
どんな時に使いやすいのか。
どんな歴史があるのか。
なぜこの土地でこの料理を出しているのか。
をきちんと伝える。
同時に地域全体では、
この街にはどんな食文化があるのか。
どんな過ごし方ができるのか。
何日あれば楽しめるのか。
どの季節がいいのか。
どう移動すればいいのか。
を伝える。
つまり、
「この街へ行きたい」
と、「この店へ行きたい」の両方を作る。
これが、これからますます重要になるのではないでしょうか。
店を選ばれる前に、街が選ばれる
ここ最近、AIと観光地の飲食店について考えることが増えました。
AIに、
「自分に合う店を探して」
とお願いする。
AIが候補を絞る。
そのあとGoogleマップやホームページ、口コミを見て、
最後は自分で、
「ここにしよう」
と決める。
そんな店選びについても考えてきました。
でも今回の取り組みを見て、
そのさらに前があることに気づきました。
「そもそも、どこへ旅行するのか」
です。
AIが旅行先まで提案するようになれば、
観光地の集客は、
店を検索してもらうところから始まるのではない。
その前の、
「この街へ行ってみたい」
から始まる。
そして、その街の魅力をAIに理解してもらうための情報は、
観光協会だけが作るものでもない。
飲食店も。
旅館も。
生産者も。
地域の人も。
旅行者も。
それぞれが発信する情報が積み重なって、
「この街は、こんな旅ができる場所です」
という姿になっていく。
AIが日本のどの地域を旅行先として薦めるのかを継続的に観測する取り組みを知って、
観光地の集客は、店を探される前から始まっているのかもしれない。
そんなことを考えました。
この記事を書くきっかけになった情報
合同会社56projectが公開した「JAPAN INBOUND AI VISIBILITY」という取り組みを知ったことが、今回の記事を書くきっかけになりました。
訪日旅行者を想定した英語の質問を生成AIに行い、日本のどの地域が旅行先として推薦されるのかを継続的に観測する取り組みです。
この記事は、この調査の順位やAI検索の仕組みそのものを評価・解説することを目的としたものではありません。「旅行者が店を探す前に、AIが旅行先そのものを提案するようになったら、観光地の飲食店集客はどう変わるのだろう」と考えたことを、飲食店側の視点から書いたものです。
参考・元記事
生成AIは訪日旅行者に日本のどこを薦める?「JAPAN INBOUND AI VISIBILITY」公開|PR TIMES
