特別編|和牛を知る #07 和牛ブランドは、これから何を売るのか?

第1話では、そもそも和牛とは何なのかを見ました。

第2話では、神戸牛の前に但馬牛という源流があることを知りました。

第3話では、但馬の牛が松阪へ渡り、その土地の肥育技術によって松阪牛というブランドへ育っていった歴史を見ました。

第4話では、近江牛・米沢牛・佐賀牛が、それぞれまったく違う方法で全国ブランドになっていったことを知りました。

第5話では、飛騨牛が「高山へ行ったら食べたい牛」という観光ブランドになった理由を考えました。

そして第6話では、和牛は霜降りだけではなく、赤身を楽しむ日本短角種や褐毛和種など、多様な価値を持っていることを見てきました。

ここまで調べてくると、一つの疑問が残ります。

これから和牛ブランドは、何を売っていくのでしょうか。

目次

「A5だから高い」だけでは、だんだん伝わりにくくなる

和牛の世界では、

A5。

霜降り。

サシ。

ブランド名。

こうした言葉が長く価値の象徴になってきました。

もちろん、それ自体がなくなるわけではありません。

でも今回、いろいろな和牛を見てきて思うのは、

「品質が高い」というだけでは、その土地で食べる理由までは伝わらない

ということです。

神戸牛は東京でも食べられます。

松阪牛も東京で食べられます。

近江牛も、飛騨牛も、米沢牛も、都市部の高級店へ行けば食べられます。

では旅行者は、なぜその土地まで行って食べるのでしょうか。

ここに、これからの和牛ブランドのヒントがあると思います。

旅行者が食べたいのは「肉」だけではない

高山で飛騨牛を食べる。

神戸で神戸牛を食べる。

松阪で松阪牛を食べる。

同じ牛肉でも、東京で食べるのとは少し意味が違います。

そこには、

街の景色。

店の雰囲気。

生産地との距離。

その土地の食べ方。

歴史。

人。

そんなものが全部重なります。

つまり旅行者が買っているのは、

牛肉そのものだけではない。

「その土地で、その牛を食べた」という体験

まで含めて買っているのだと思います。

ブランド牛は「産地説明」だけでも足りない

飲食店のメニューを見ると、

「地元産○○牛を使用」

と書いてあることがあります。

これは大切です。

でも、第1話からここまで見てくると、それだけでは少しもったいないことが分かります。

たとえば松阪牛なら、

「松阪産の牛です」

だけでは、本当の面白さは伝わりません。

但馬などから良い素牛を選び、

松阪で長く肥育し、

農家の技術によって肉質を高めてきた。

そこに松阪牛らしさがあります。

神戸牛なら、

但馬牛という血統。

兵庫県内で守られてきた生産の仕組み。

さらに、その中から厳しい基準を満たした牛肉だけが神戸牛になる。

飛騨牛なら、

安福号。

全国大会。

そして高山の街全体で「食べる体験」に変えてきた。

ブランド名の後ろには、それぞれ違う物語があります。

これからは「違いを説明できるブランド」が強くなる

和牛ブランドは全国にたくさんあります。

どれも、

高品質。

黒毛和種。

丁寧に育てた。

おいしい。

という言葉を使います。

でも、それだけでは違いが分かりにくい。

だからこれから重要になるのは、

「うちの牛は、他と何が違うのか」

を説明できることだと思います。

血統なのか。

肥育期間なのか。

飼料なのか。

放牧なのか。

赤身なのか。

霜降りなのか。

地域の歴史なのか。

食べ方なのか。

観光との結びつきなのか。

同じ和牛でも、価値の源泉は違います。

そこを言葉にできるかどうか。

ブランド力は、そこでも変わってくるのではないでしょうか。

日本短角種を見ると、その可能性がよく分かる

第6話で見た日本短角種は、とても象徴的でした。

黒毛和種と比べれば、霜降りが少ない。

以前なら、それは弱みとして見られたかもしれません。

でも今は、

赤身。

旨味。

脂の軽さ。

放牧。

地域性。

といった価値に変わっています。

つまり、

価値は固定されているわけではない。

時代によって、消費者が求めるものが変われば、

昔は弱みだった特徴が、強みに変わることもある。

これは、これからの和牛ブランドにとってかなり重要な視点だと思います。

「高級和牛」から「選べる和牛」へ

これまでの和牛市場では、

「どれだけ霜降りが入っているか」

という一つの物差しが、とても強かったと思います。

でもこれからは、

脂を楽しみたい。

赤身を楽しみたい。

すき焼きで食べたい。

ステーキで食べたい。

少量をじっくり味わいたい。

たくさん食べたい。

旅行先でその土地らしい食べ方をしたい。

そんな選び方が増えていくはずです。

つまり、

「どの和牛が一番上か」

ではなく、

「自分には、どの和牛が合うのか」

へ。

和牛の楽しみ方も変わっていくのかもしれません。

飲食店は、ブランド名を借りるだけで終わってはいけない

これは観光地の飲食店にとって、かなり大事なところです。

「飛騨牛使用」

「近江牛使用」

「松阪牛使用」

と書けば、商品価値は上がります。

でも、

ブランド名を借りているだけでは、その店独自の価値にはなりません。

なぜこの牛を使うのか。

なぜこの料理なのか。

なぜこの焼き方なのか。

なぜこの地域で食べてほしいのか。

そこまで説明できれば、

ブランド牛の価値と、店の価値がつながります。

ここが重要です。

和牛を「料理」から「旅の記憶」に変えられるか

飛騨牛の回で見たように、観光地の強さは、

「おいしいものがある」

だけではありません。

旅行者の旅程の中に、その食を入れられるか。

町を歩いていて目に入る。

香りがする。

気軽に食べられる。

夜には本格的に食べられる。

土産にもできる。

そこまで揃うと、

食は単なる料理ではなくなります。

旅の記憶になります。

和牛ブランドも、これからは

「肉質が良い」

だけではなく、

「その土地でしか完成しない体験」

をどう作るかが、ますます重要になるのではないでしょうか。

和牛を調べたら、地域ブランドの話になっていた

このシリーズを始めた時は、

和牛と国産牛の違い。

神戸牛と松阪牛の違い。

そんなことを整理するつもりでした。

ところが、7話まで来てみると、

話はずいぶん広がりました。

血統を守る地域。

素牛を買って育てる地域。

鉄道によって広がったブランド。

外から評価されて有名になったブランド。

市場で名前を付けて売り出したブランド。

大会実績を観光商品に変えたブランド。

霜降りではなく赤身を価値にする和牛。

和牛を調べていたはずなのに、

気づけば、

「地域の価値は、どうやってブランドになるのか」

を考えていました。

良いものは、伝えて初めてブランドになる

最後に、このシリーズを通して一番感じたことがあります。

良い牛を育てる。

それだけでも大変なことです。

でも、

良いものがあるだけではブランドにはならない。

名前を付ける。

基準を作る。

守る。

外へ運ぶ。

評価される。

物語を伝える。

食べてもらう。

そして、

「また食べたい」

「この土地へ行ったら食べたい」

と思ってもらう。

そこまで積み重なって、初めてブランドになる。

これは、和牛だけの話ではありません。

観光地の飲食店も同じです。

料理が良い。

食材が良い。

技術がある。

その次に必要なのは、

その価値を、旅行者に分かる形で伝えること。

和牛を調べてきた7話でしたが、最後にたどり着いたのは、やはりそこでした。

良いものを作る。
そして、その価値を伝える。

地域ブランドは、その両方があって初めて育つのだと思います。

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