なぜ2代目・3代目は古い社員とぶつかるのか?

事業承継では、2代目・3代目の経営者と、先代の時代から働いてきた社員がぶつかることがあります。

後継者は「これからの店のために変えたい」と考える。
一方、古くからいる社員は「先代が築いてきた店を守りたい」と考える。

実は、どちらも店を大切に思っているのに、なぜか対立してしまうのです。

その背景には、「今」を否定されることで、自分たちが積み重ねてきた「過去」まで否定されたように感じる心理があります。

過去を否定せず、それでも未来のために今を変えていく。
事業承継で起こりやすい世代間のすれ違いから、その方法を考えてみます。

目次

なぜ2代目・3代目は古くからいる社員とぶつかることになるのか?

事業承継をした2代目・3代目の経営者から、こんな話を聞くことがあります。

「昔からいる社員が、なかなか新しいことを受け入れてくれない」

「何か変えようとすると、必ず反対される」

「『先代のときはこうだった』と言われて、話が進まない」

後継者からすれば、これから自分が経営していかなければなりません。

時代も変わっている。
お客様も変わっている。
働く人の価値観も変わっている。

だから、「今のうちに店を変えなければ」と考える。

ところが、古くからいる社員はなかなか動いてくれない。

すると後継者は、

「昔からいる社員が、変化を邪魔している」

と感じるようになります。

しかし、本当に古くからいる社員は、「変わりたくない」から反対しているのでしょうか。

「今」を否定されると、「過去」まで否定されたように感じる

古くからいる社員にとって、今の店は突然できたものではありません。

先代と一緒に、何年も、何十年もかけてつくってきた店です。

忙しい時期を乗り越えたこともある。

売上が厳しい時期に、みんなで店を支えたこともある。

新しい料理を考えたり、失敗したり、お客様から叱られたり、喜んでもらったりしながら、今の店をつくってきました。

そんな社員に対して、後継者が、

「このやり方は古い」

「今のままではダメだ」

「これからは全部変えていかなければいけない」

と言ったら、どう感じるでしょうか。

後継者は「これからの店を良くしたい」と思って言っているだけかもしれません。

しかし、古くからいる社員には、

「これまで自分たちがやってきたことは間違っていた」

と言われているように聞こえることがあります。

今を否定されることは、自分たちが先代と一緒に積み重ねてきた過去まで否定されることでもある。

だから、反発するのです。

変化そのものを嫌っているとは限りません。

自分たちがやってきたことまで、否定されたくないのです。

先代がいなくなると、「自分たちが守らなければ」と思う

さらに事業承継が進み、先代が現場から離れると、古くからいる社員の気持ちは少し変わっていきます。

長年、一緒に店をつくってきた先代がいなくなる。

すると、

「この店らしさを残さなければ」

「先代が大切にしてきたものを守らなければ」

という気持ちが強くなることがあります。

先代がいる間は、先代自身が店の歴史や考え方を守っていました。

でも、その先代がいなくなった。

だから今度は、

「自分たちが、この店を守らなければ」

と思うようになる。

後継者から見れば、「昔のやり方に固執している」ように見えるかもしれません。

しかし本人たちは、変化を邪魔しているつもりではない。

むしろ、

先代が築いてきた大切な店を守ろうとしているのです。

ここに、後継者と古くからいる社員の大きなすれ違いがあります。

後継者もまた、「店を守ろう」としている

一方、後継者にも理由があります。

後継者が店を変えたいのは、先代のやり方を否定したいからとは限りません。

むしろ、

この店を、これからも残したいから変えようとしている。

今は売上がある。

今はお客様も来ている。

今はスタッフもいる。

だから、古くからいる社員には、

「なぜ、今変える必要があるのか」

が見えにくいことがあります。

しかし後継者は、5年先、10年先を考えています。

人口が減っていく。

人が採用しにくくなる。

原材料費も人件費も上がっていく。

お客様の価値観や店の選び方も変わっていく。

今は大丈夫でも、このままで未来も大丈夫とは限りません。

だから、まだ余裕のある今のうちに変えようとする。

ここが面白いところです。

古くからいる社員も、店を守ろうとしている。

後継者も、店を守ろうとしている。

実は、どちらも同じ店を守ろうとしているのです。

ただし、見ている時間が違います。

古くからいる社員は、これまで大切にしてきたものを守ろうとしている。

後継者は、これからも店を残すために変えようとしている。

だから、ぶつかるのです。

過去を否定しなくても、店は変えられる

ここで後継者がやってはいけないのは、

「昔のやり方は間違っていたから変える」

という伝え方です。

今の店があるのは、これまでの取り組みがあったからです。

先代の経営があり、

古くからいる社員の努力があり、

お客様との関係があり、

取引先との付き合いがあり、

その積み重ねの上に、今の店があります。

まず、それを認める。

「ここまで店をつないできてくれたから、今がある」

そのうえで、

「この店をこれからも残していくために、今のうちに変えたい」

と伝える。

この二つは、まったく意味が違います。

過去が間違っていたから変えるのではありません。

過去があったからこそ、未来につなぐために今を変えるのです。

「何を守りたいのか」を聞いてみる

古くからいる社員が何かに反対したとき、

「また反対された」

で終わらせないことも大切です。

一度、

「なぜ、それを残したいのですか?」

と聞いてみてください。

すると、今まで見えていなかった理由が出てくることがあります。

「この料理を楽しみにしている昔からのお客様がいる」

「先代が、ここだけは絶対に手を抜くなと言っていた」

「このやり方だから品質を守れている」

「毎年これを楽しみに来てくださるお客様がいる」

そこには、数字にもマニュアルにも書かれていない、その店の歴史があります。

反対意見の中に、

「この店の何を守りたいのか」

が隠れていることがあるのです。

それを知らずに変えるのと、知ったうえで変えるのでは、まったく違います。

大切なものを守るために、やり方を変える

だから事業承継では、

「変えるか、変えないか」

だけで話をしないほうがいいと思います。

まず、

「この店で、これからも絶対に守りたいものは何だろう」

を考える。

料理なのか。

接客なのか。

お客様との関係なのか。

店の雰囲気なのか。

先代が大切にしてきた考え方なのか。

そして、守るべきものが見えてきたら、次に考える。

「それを10年後も残すためには、今、何を変えなければならないのか」

ここまで話ができると、変化の意味が変わります。

昔の店を壊すために変えるのではありません。

大切なものを未来まで守るために、今のやり方を変える。

それなら、古くからいる社員にも変化の必要性を理解してもらいやすくなるはずです。

今のうちに変わるから、未来が見えてくる

経営が本当に苦しくなってからでは、できることは限られます。

売上が落ちてから。

お客様が離れてから。

人が辞めてから。

資金がなくなってから。

そこで初めて「変わろう」としても、選択肢は少なくなっています。

だからこそ、

今がまだ大丈夫なうちに変わる。

余裕があるうちに、新しいことを試す。

失敗できるうちに、試行錯誤する。

小さな変化を積み重ねながら、次の時代に合う店の姿を探していく。

そうすることで、少しずつ未来が見えてきます。

変化とは、過去を捨てることではありません。

未来にも大切なものを残すために、今の形を変えていくことです。

原島純一の視点

事業承継で古くからいる社員とぶつかったとき、私は「変化を嫌う人だから」と簡単に考えないほうがいいと思っています。

長く働いてきた人ほど、今の店に強い思いがあります。

なぜなら、その「今」をつくってきた一人だからです。

だから今を否定されると、自分たちが先代と一緒に取り組んできた過去まで否定されたように感じます。

そして先代が現場を離れれば、

「今度は自分たちが、この店を守らなければ」

という気持ちにもなるでしょう。

私は、その気持ち自体はとても大切なものだと思っています。

問題は、「守る」ということの意味です。

昔と同じことを続けることだけが、店を守ることではありません。

時代が変わっているのに何も変えなければ、守りたかった店そのものがなくなってしまうかもしれません。

だから、

これまでやってきたことを認める。

先代が大切にしてきたものを聞く。

この店で絶対に残したいものを一緒に考える。

そのうえで、

「それを未来にも残すために、今のうちに変わりましょう」

と伝える。

過去を否定するための変化ではありません。

未来へつなぐための変化です。

過去を認め、今を変え、未来につなぐ。

古くからいる社員と後継者が、この考え方を共有できたとき、事業承継は大きく前へ進むのだと思います。

目次