なぜ観光客は、知らない店に入りにくいのか?
旅行先を歩いていると、気になる飲食店を見つけることがあります。
古い建物。
立派な暖簾。
美味しそうな料理の写真。
なんとなく良さそうなお店。
でも、
店の前まで行ったのに、入らなかった。
そんな経験はないでしょうか。
料理を食べたわけではありません。
接客を受けたわけでもありません。
それなのに、
「ここはやめておこう。」
と判断してしまう。
なぜなのでしょうか。
私は、観光地のお客様には、
「知らない店に入る」という小さな不安がある
からだと思っています。
観光客は、その店のことをほとんど知らない
地元のお客様なら、その店について多少の情報を持っていることがあります。
「あそこは昔からある店だよ。」
「友達が美味しいと言っていた。」
「前にも行ったことがある。」
そんな情報があります。
でも、初めてその土地を訪れた観光客にはありません。
どんな料理が出てくるのか。
値段はいくらなのか。
店内はどんな雰囲気なのか。
入り方は難しくないか。
自分たちが入っても大丈夫なのか。
何も分からない状態で、店を選ばなければなりません。
つまり観光客にとって店選びは、
知らないものの中から一つを選ぶ行為
でもあります。
旅行中の食事は、できれば失敗したくない
そして、もう一つ大きな違いがあります。
旅行中の食事には、回数の限りがあります。
一泊二日の旅行なら、
昼。
夜。
翌日の朝。
昼。
せいぜい数回です。
その一食を、
「まあ、ハズレだったね。」
で終わらせたくない。
せっかく旅行へ来たのだから、
美味しいものを食べたい。
その土地らしいものを食べたい。
良い思い出にしたい。
だから普段の食事以上に、
「失敗したくない。」
という気持ちが強くなります。
だから観光客は「安心できる材料」を探している
知らない土地。
知らない店。
限られた食事の回数。
だから観光客は、お店を選ぶときに無意識のうちに、
「この店なら大丈夫そうだ。」
と思える材料を探しています。
例えば、
店頭にお客様がいる。
暖簾がきれいに掛かっている。
何の店なのか分かる。
料理の写真が見える。
値段が分かる。
店内の様子が少し見える。
入口が分かりやすい。
スタッフの姿が見える。
Googleの口コミが多い。
行列ができている。
一つひとつは小さなことです。
でも、それらが積み重なることで、
「入ってみようかな。」
という気持ちが生まれます。
行列に並ぶのも「安心」があるから
以前、
「なぜ旅行客は行列に並ぶのか?」
ということを考えました。
行列には、
「人気だから食べたい。」
という気持ちもあります。
でも、それだけではありません。
知らない土地で店を選ぶ観光客にとって、
多くの人が並んでいる光景は、
「これだけ人がいるなら、大きく外すことはなさそうだ。」
という安心材料になります。
つまり、
観光客が店を選ぶとき、
最初から「一番美味しい店」を見抜いているわけではありません。
まず、
「安心して選べる店」
を探しているのです。
「美味しそう」の前に「大丈夫そう」がある
飲食店側は、どうしても料理を見せたくなります。
「うちの料理は美味しい。」
「この食材にこだわっている。」
「職人が丁寧に仕込んでいる。」
もちろん、それは大切です。
でも観光客がお店の前に立ったとき、
その魅力を感じてもらう前に、
一つ越えなければならないものがあります。
それが、
「この店に入って大丈夫だろうか。」
という不安です。
私は、
「美味しそう」の前に、「大丈夫そう」がある
と思っています。
安心できなければ、
料理の魅力を知ってもらうところまで進めないことがあります。
安心だけでは、入店しない
ただし、
ここで一つ注意があります。
安心できれば、それだけで入店するのでしょうか。
私は、そうではないと思っています。
安心できる。
でも、
「別にここじゃなくてもいい。」
と思われたら、通り過ぎてしまいます。
だから、
安心の次には、「心が動く」が必要です。
「この料理、美味しそう。」
「この雰囲気、好きだな。」
「ここで食べてみたい。」
「この店、面白そう。」
そんな気持ちが生まれて、
初めて、
「入ろう。」
になります。
だから私は、観光地の店頭づくりを、
安心 → 心が動く → 入店
という順番で考えています。
店頭は「入口」ではなく、お店を選ぶ場所
店頭というと、
看板を置く場所。
メニューを置く場所。
入口をつくる場所。
と思われがちです。
でも、お客様の立場から見ると少し違います。
店頭は、
「この店に入るかどうかを決める場所」
です。
お客様は、そこでたくさんの情報を見ています。
暖簾。
看板。
料理写真。
価格。
入口。
店内。
スタッフ。
お客様。
建物。
それらを見ながら、
「大丈夫そう。」
「美味しそう。」
「入ってみたい。」
と判断しています。
だから店頭づくりは、
単なる装飾ではありません。
お客様が安心し、心が動き、入店するまでの体験をつくること
なのだと思います。
原島純一の視点
私は飲食店を視察するとき、料理だけを見ているわけではありません。
むしろ、お店に入る前にかなりの時間、店頭を見ることがあります。
なぜなら、
お客様も料理を食べる前に、その店を見ているからです。
特に観光地では、お客様の多くがその店を初めて利用します。
知らない土地で、
知らない店に入る。
そこには、ほんの少しですが不安があります。
だから、
何の店なのか分かる。
価格が分かる。
料理が分かる。
店内の雰囲気が分かる。
人の気配がある。
そうした一つひとつが安心につながります。
でも、安心だけでも足りません。
その先に、
「ここで食べたい。」
と心が動く何かが必要です。
だから私は、
安心 → 心が動く → 入店
という順番を大切にしています。
店頭は、単にお客様を迎える入口ではありません。
お客様がお店を選ぶ場所です。
観光地の飲食店ほど、料理を磨くのと同じように、料理を食べる前の体験も磨く必要があると私は考えています。
