なぜ外国人観光客は「日本人が食べているもの」を食べたがるのか?
外国人観光客が増えると、
「外国人向けのメニューをつくったほうがいいのではないか。」
「外国人に人気の料理を増やそう。」
「外国人が食べやすい味に変えたほうがいいのではないか。」
そんな話が出ることがあります。
もちろん、外国人観光客が利用しやすいように工夫することは大切です。
でも私は、その前に一度考えてほしいことがあります。
外国人観光客は、
何を求めて、日本まで旅行に来ているのでしょうか。
私はその一つに、
「日本でしかできない食体験をしたい。」
という気持ちがあると思っています。
「日本食を食べたい」だけではない
日本食は、今では世界中で食べることができます。
寿司。
ラーメン。
焼鳥。
天ぷら。
カレー。
日本食レストランがある国も珍しくありません。
それでも日本へ旅行に来ると、
「日本で寿司を食べたい。」
「日本のラーメン屋へ行きたい。」
「日本の居酒屋へ行ってみたい。」
となります。
料理そのものだけが目的なら、自国でも食べられるかもしれません。
でも、
日本で、日本人が食べているものを食べる。
そこには、料理の味だけではない価値があります。
日本人にとっての日常が、外国人には旅の体験になる
例えば、
仕事帰りの人で賑わう居酒屋。
カウンターだけのラーメン店。
地元の人が利用する定食屋。
回転寿司。
焼鳥屋。
市場の食堂。
日本人にとっては、特別な場所ではないかもしれません。
普段から利用している、ごく普通の飲食店です。
でも外国人観光客から見るとどうでしょう。
店に入る。
食券を買う。
カウンターに座る。
目の前で料理がつくられる。
周りの日本人と同じ料理を食べる。
こうした一つひとつが、
「日本で食事をしている。」
という体験になります。
つまり、
日本人の日常そのものが、外国人観光客には観光体験になることがあります。
「日本人と同じものを食べたい」という価値
旅行では、
「現地の人は何を食べているんだろう。」
と気になることがあります。
観光客向けにつくられた料理だけではなく、
「地元の人が本当に食べているものを食べてみたい。」
という気持ちです。
これは日本を訪れる外国人観光客にもあるでしょう。
日本人が並んでいる店。
地元の人で賑わっている店。
日本語ばかりが聞こえる店。
そんな場所に入って、
日本人と同じ料理を注文する。
そこには、
「日本の日常の中に入った。」
という楽しさがあります。
食事を通して、その国の暮らしに少し触れているのです。
外国人向けに変えることだけが、インバウンド対応ではない
だから私は、
インバウンド対応というとすぐに、
「外国人向けに何をつくるか。」
から考える必要はないと思っています。
もちろん、
英語表記。
料理写真。
アレルギー情報。
注文方法。
決済方法。
こうした利用しやすさを整えることは必要です。
でも、
料理そのものまで外国人向けに変える必要があるのか。
ここは別の話です。
外国人観光客は、日本まで旅行に来ています。
だったら、
日本でしかできない体験を求めている可能性があります。
外国人向けに日本らしさを薄めるより、
自分たちが普段提供している日本の食文化を、そのまま楽しんでもらう。
私は、こちらの発想も大切だと思っています。
「外国人に人気の料理」だけを追わない
インバウンドについて考えると、
「外国人には何が人気なのか。」
という情報が気になります。
和牛。
寿司。
ラーメン。
天ぷら。
もちろん、こうした人気料理を提供することも一つの方法です。
でも、すべてのお店が同じものを提供したらどうでしょう。
せっかく日本各地を旅行しているのに、
どの観光地へ行っても、
和牛。
寿司。
天ぷら。
ラーメン。
ばかりになってしまいます。
それでは、その土地へ行く意味が弱くなります。
むしろ、
その地域の人が昔から食べてきたもの。
その店がずっと提供してきたもの。
そこに、外国人観光客にとっての新しい体験があるかもしれません。
自分たちの「普通」を見直してみる
これは、日本人観光客について考えたときにも同じ話をしました。
地元の人にとっては当たり前でも、
観光客にとっては特別なものがあります。
外国人観光客なら、その差はさらに大きくなります。
普段使っている食材。
昔からある料理。
当たり前の食べ方。
料理の出し方。
器。
店のつくり。
日本人にとっては、
「こんなの普通だよ。」
と思うものでも、
外国人観光客には、
初めて見る日本の食文化
かもしれません。
だから、
「外国人向けに新しい商品をつくらなければ。」
と考える前に、
自分たちがすでに持っているものの中に、外国人観光客にとって価値のある体験はないか。
一度見直してみることが大切です。
大切なのは「変えること」より「分かるようにすること」
ただし、
「日本のままでいい。」
ということは、
何もしなくていいという意味ではありません。
外国人観光客にとって分からないものは、たくさんあります。
料理名が読めない。
何が入っているのか分からない。
どう注文すればいいのか分からない。
どう食べればいいのか分からない。
だから必要なのは、
日本らしさをなくすことではなく、日本らしさを理解できるようにすること。
です。
料理写真を見せる。
食材を説明する。
食べ方を伝える。
簡単な多言語表記を用意する。
注文方法を分かりやすくする。
そうすれば、
料理そのものを外国人向けに変えなくても、
日本の食体験を楽しんでもらいやすくなります。
「外国人向け」ではなく「外国人にも伝わる」
私は、この違いは大きいと思っています。
外国人向けの店に変える。
のではなく、
自分たちの店の価値を、外国人にも伝わるようにする。
日本人が食べている料理。
地域で昔から食べられているもの。
店が長年提供してきた料理。
そうしたものを残しながら、
外国人観光客にも、
「これは何なのか。」
「なぜこの地域で食べられているのか。」
「どう楽しめばいいのか。」
が分かるようにする。
そうすることで、
日本でしかできない食体験
を届けることができます。
原島純一の視点
私は、インバウンド対応という言葉を聞くと、
「外国人向けに何をつくるか。」
という話になりすぎることがあると感じています。
でも外国人観光客は、日本まで旅行に来ています。
日本で、
日本人が食べているものを食べる。
日本人が利用している店に入る。
日本人と同じように食事をする。
それ自体が、旅の楽しみになることがあります。
だから私は、
外国人観光客が来るからといって、自分たちの店を何でも外国人向けに変える必要はないと考えています。
むしろ一度、
「自分たちが当たり前にやっていることの中に、日本でしかできない食体験はないだろうか。」
と考えてほしいと思っています。
地元では普通の料理かもしれません。
昔からある食べ方かもしれません。
何十年も変わらず提供してきた一品かもしれません。
日本人にとっての日常が、
外国人観光客には特別な体験になることがあります。
もちろん、分かりやすくする工夫は必要です。
でも、
変えることと、伝えることは違います。
日本らしさを外国人向けに薄めるのではなく、
日本らしさを残したまま、外国人にも分かるように伝える。
私は、それが観光地飲食店のインバウンド対応では、とても大切な考え方だと思っています。